研究課題/領域番号 |
23580343
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
前田 武己 岩手大学, 農学部, 准教授 (40333760)
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研究分担者 |
立石 貴浩 岩手大学, 農学部, 准教授 (00359499)
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キーワード | 農業環境工学 / バイオマス / 廃棄物再資源化 / 環境技術 |
研究概要 |
堆肥材料中のリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)の生成促進は,アンモニア揮散低減と堆肥の肥効向上とが期待される。家畜排せつ物中のMAP構成元素(Mg,P,N)は,Mgが最もその量が少ないため,本研究ではMg源のみの添加が家畜排せつ物各種の堆肥化およびMAP生成に及ぼす影響について検討を行うとともに,得られた堆肥の肥効についても検討を行った。 供試材料として,肥育牛,搾乳牛,肥育豚,ブロイラーの4畜種の排せつ物をそれぞれ用い,堆肥化は反応槽容積約4 Lの気浴保温式装置にて15日間あるいは12日間(ブロイラー)行った。Mg源としてはMgCl2・6H2Oを用い,材料乾燥質量1 kg当たり0.1,0.2,0.4 molの添加区と,無添加である対照区の計4条件の検討を行った。MgCl2添加区では材料の昇温にわずかな遅れが生じ,ブロイラー以外では有機物分解率が低下したが,いずれも堆肥化に対する大きな障害とはならなかった。その一方でMgCl2添加区ではアンモニア揮散が低減され,0.4 mol区においてはCont.区と比べて,肥育牛が30 %,搾乳牛が23 %,肥育豚が18 %,ブロイラーが29 %,それぞれ低減された。このため,MgCl2添加区では堆肥に残存した窒素量が多くなったが,肥育牛を除くとMAP-Nの増加は観察されなかった。したがって前述のアンモニア揮散低減は,主にMgCl2添加による材料pHの低下による効果であった。 冷凍保存していた肥育牛と搾乳牛の実験により得られた堆肥を解凍し,さらに42日間後熟させて,コマツナのポット栽培試験を行った。この結果,肥育牛堆肥ではMgCl2添加堆肥の可給態窒素量(MAP-N + TAN)が多く,このためコマツナ乾燥質量も有意に大きくなった。また,肥育牛,搾乳牛ともに,堆肥施用によるコマツナの生育障害は生じなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成25年度上半期までには当初計画に挙げていた主要家畜4種の排せつ物についての個別の検討は終了していた。しかしながら,堆肥材料中のMAP生成に関連する既往研究に基づいた予測とは大きく異なり,本研究にて行ったMgCl2のみの添加によるMAP生成促進効果は小さいものであった。既往研究においては,堆肥材料中のMAP含量をその定量法の違いから過大に評価している可能性もあると考えられる。しかし,堆肥材料中のMAP生成促進の手法の開発はアンモニア揮散による窒素損失抑制による肥料効果の向上が期待できることから,その意義は大きい。このため研究計画を変更し,Mg源の違いの効果や,P源の同時添加についての効果について,更なる検討を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
現在は,Mg源の違いの効果や,P源の同時添加についての効果について,検討を行っている。MgCl2のみの添加によるMAP生成促進効果が小さい理由としては,1)MAP生成に最適とされるpHは9.5付近とされるが,MgCl2添加では材料のpHがやや低下してこの値からの差が大きくなる,2)排せつ物中のP含量が比較的少ないことに加えてその反応性が低い,ことが指摘される。この1)に対してはMg源としてアルカリ性を示すMgOやMg(OH)2を用いることを検討する。しかしながら,材料pHを9.5近くに高く維持することはアンモニア揮散に対しては増加要因となるため,これに対しては通気量の抑制などにより対処する必要が生じる。また,2)については何らかのP源を材料に添加する方法が有効であることから,その効果を1)のMg源の違いと合わせて検討する。これらのMg源とP源の添加,材料pHの上昇方法については,リサイクル資源として家畜排せつ物焼却灰や通気量制御(抑制)の利用も含めた検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進行とともに,堆肥材料中のMAP生成が予想に反して少なく,関連する既往研究に基づいた予測とは大きく異なることが明らかとなった。しかし,堆肥材料中のMAP生成促進の手法の開発はアンモニア揮散による窒素損失抑制による肥料効果の向上が期待できることから,その意義は大きい。このため,当初計画していた設備の新設を伴うスケールアップの実験を中止して,Mg源の違いの効果や,P源の同時添加についての効果について,更なる検討を行うように研究計画を変更した。 理由にて述べたように,変更後の研究計画としての,Mg源の違いの効果やP源の同時添加についての効果を確認するための実験に,物品費や謝金などの関連する費用として利用する。並びに,それらの結果を含めた内容の研究発表,論文校正・投稿料金となどとして利用する。
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