研究課題
ヤギを繰り返し輸送することによる輸送中の生理学的・行動学的変化:平成23年度までに、輸送によってヤギはほとんど体を動かさないようになるが、動揺病(乗り物酔い)軽減効果のある薬の投与で、この行動学的反応が軽減されることを示した。今年度は、この行動学的反応を含めた幾つかの項目が、輸送の経験によって変化するか否かを検討した。輸送経験のないヤギを8回輸送した結果、ストレスホルモンであるコルチゾルの血中濃度は、初回から8回目まで、輸送により同じように増加した。少なくとも8回の輸送においては「慣れ」の効果は期待できないことが分かった。一方、行動学的反応については、2~3回目以降の輸送において、輸送開始から伏臥位姿勢を取るまでの時間が早くなる、輸送中に伏臥位姿勢を取っていた時間帯が増加する、などの変化が観られた。このことから、ヤギは輸送を経験することによって輸送を学習し、行動を変化させることによりそれに対応している可能性が示された。催吐剤投与に対する各種血中ペプチド濃度の反応:イヌにおいて、催吐作用のある抗癌剤であるシスプラチンを投与すると、嘔吐に同調してペプチドYY(PYY)、アルギニンバソプレッシン(AVP)、コレシストキニン(CCK)の血中濃度が増加することが報告されている。ヤギにおいて、これらのぺプチドの血中濃度が悪心(気分が悪いこと)の生理学的指標となり得るか否かを検討した。その結果、シスプラチン投与により、ヤギの動きが少なくなり、採血のために近づいても逃げないなどの様子が見られた。さらに、この反応が観察された時間帯に同調して、血中コルチゾル濃度の顕著な増加が観られた。しかしPYY、AVP、CCKいずれの血中濃度にも変化は観られなかった。このことから、少なくともヤギにおいては、これらのペプチドの血中濃度は悪心の指標とはなり得ないことが明らかとなった。
3: やや遅れている
当初の予定よりやや遅れている理由は、主に3つある。1)一昨年の3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の影響により、本研究のスタートが当初の予定よりも遅れたこと。2)研究協力者の藤平篤志が、24年度に獨協医科大学から現職の日本獣医生命科学大学に転出したため、研究が一時中断したこと、3)私事であるが、代表者の青山の父親が平成24年の8月に他界し、その対応のため比較的頻繁に兵庫県の実家に帰る必要があったので、研究を集中的に進める予定であった夏休みに当初の予定のように進められなかったこと。
今年度は以下の2つを重点的に進める。脳幹におけるc-Fosタンパク質発現を指標とした動揺病の検討:神経細胞活動のマーカーであるc-Fosタンパク質発現を指標とし、ヤギの脳幹においてトラック輸送により反応する部位を特定できた。今年度は、これらの反応が実際に動揺病発生と関連するものなのかどうかを確認するため、例えば動揺病を抑制する薬(ジフェンヒドラミンなど)の投与によりc-Fosタンパク質の発現がどう変化するかを確認する。さらに、悪心を感じているか否かを検討するため、シスプラチン等の催吐剤に対するc-Fosタンパク質の発現を検討し、輸送による反応と比較検討する。悪心を示す生理的指標の検討:シスプラチンの投与により、ヤギが悪心を感じている様な行動を取っていた最中においても、PYY、AVP、CCKのいずれの血中ペプチドにも変化がなかった。今後、二次元電気泳動などの方法により、悪心を感じていると考えられる時間帯の血中に特有の物質が出現するか否かを、網羅的に解析することを考えている。研究遂行における課題とその対応:研究分担者の杉田昭栄が宇都宮大学の農学部長を務めることになったため、本研究に割ける時間が少なくなった。これに対応するため、本テーマを修士論文や博士論文のテーマとしない院生においても、技術的には類似した方法を使っている者を実験補助として雇用することを考えている。
昨年度からの繰り越しが450,000円余りあり、今年度は直接経費が総額で1,450,000円余りとなる。特に高額な設備備品を購入する予定はない。試薬類500,000円、ガラス・プラスチック機器240,000円、記録媒体10,000円、動物とその飼料等250,000円、国内旅費150,000円、謝金150,000円、その他100,000円を目安に使用する。
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