最終年度の成果:①これまでの研究により、ヤギをトラック輸送すると、吐き気(悪心)を発生する中枢と考えられている延髄の孤束核に、神経活動のマーカーであるc-Fosタンパク質(以下Fos)の発現が増加することを示した。今年度は、この現象におよぼす「酔い止め薬」(ジフェンヒドラミン:DH)の影響を検討した。対照区(生理食塩水を投与して輸送)、処置区(DHを投与して輸送)それぞれ3頭のヤギを用いて検討した結果、処置区の弧束核におけるFos発現細胞数は、対照区のそれに比べ少ない傾向があった。ただし、統計的に有意な差は見られなかった。もう少し例数を増やす必要がある。②悪心を誘発する抗癌剤の1種であるシスプラチン(CisP)をヤギに投与すると、約2時間後に、顔を下に向けて動かない状態になる(あたかも悪心を感じているようにみえる)。この現象の神経生理学的メカニズムが、他の動物における嘔吐と共通であるか否かを検討するため、シスプラチンによる悪心や嘔吐を軽減する効果のあるオンダンセトロン(On)の効果を検討した。4頭のヤギで試した結果、CisPが引き起こす上述の状態になるまでの時間は、On投与により延長される傾向にあった。この試験についても、もう少し例数を増やす必要がある。 期間全体を通じて実施した成果:①ヤギのトラック輸送中の行動は、DHにより軽減される。②ヤギをトラック輸送すると、延髄弧束核が反応する。DHはその反応を減弱する可能性がある。③CisP投与によりヤギに現れる行動の変化は、「変化が現れるのに90~160分を要する」、「(血中コルチゾル濃度の顕著な増加があることから)ストレスである」、「Onにより軽減される可能性がある」、など、嘔吐する動物の悪心と共通点がある。
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