効率的な牛肉生産を考える上で問題となるものの一つに、肥育後期における肥育効率の低下が挙げられる。本研究は、『肥育に伴って、褐色脂肪細胞による熱産生が増加し、肥育効率が低下するのではないか?』との仮説の下、肥育牛の白色脂肪組織における褐色脂肪細胞の存否、給与飼料が褐色脂肪細胞活性に及ぼす影響、さらには、褐色脂肪細胞分化ならびに活性調節機構の解明を目的としている。 研究初年度に、肥育牛の白色脂肪組織中に褐色脂肪細胞は存在することを明らかにしているので、本年度は、黒毛和種去勢牛を用いてホールクロップサイレージ飼料給与の影響を検討した。10-31ヶ月齢まで稲もしくは大麦ホールクロップサイレージと市販濃厚飼料、あるいは、チモシー乾草と市販配合飼料を給餌した。31ヶ月齢で屠殺し、白色脂肪組織(腰部皮下、腸間膜、腎周囲、最長筋周囲、ならびに最長筋内)を採取し、褐色脂肪細胞関連遺伝子群の発現を検討した。その結果、褐色脂肪細胞のマーカー遺伝子であるUCP1発現はいずれの部位においても給与飼料間で差はなかった。ミトコンドリア生合成を促進するPGC-1発現に関しても給与飼料の影響はなかった。一方、褐色脂肪細胞分化を誘導する転写因子PRDM16、ならびに褐色脂肪細胞で高発現するCIDEAの腎周囲脂肪における発現はホールクロップサイレージ飼料給与により増加あるいは増加傾向を示した。 また、褐色脂肪細胞株HB2の分化に必須の因子の同定、ならびにTGF-βファミリーの内TGF-βとアクチビンAに褐色脂肪細胞分化抑制活性があることを明らかにした。
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