本年度は、左右差が生じる脳部位の同定をめざし、ウェスタンブロットおよび免疫化学染色法などを用いて調査するとともに、ストレス緩和作用のあると云われるトリプトファンを用いてストレスと終脳左右差との関係について検討を行った。 (1)単離ストレスによる左右差と脳部位:これまで繰り返し検討を行ってきた単離処理を用いて調査したところ、ウェスタンブロットあるいは免疫化学染色法ではNPY受容体などに明確な違いは見いだせず、部位の同定には至らなかった。これは、対象としたホルモンや受容体のストレスに対する反応時間が原因であるものと考えられた。さらに、パンチアウト法を用いて不快情動において重要な脳部位(扁桃体)のモノアミン濃度を左右で比較したが、同様に明確な傾向は認められなかった。これについては、扁桃体ではなく側座核などの他部位での反応が重要であるものと考えられた。 (2)トリプトファン経口投与がストレス負荷時の終脳左右差および行動に及ぼす影響:セロトニンの前駆体であるトリプトファンを給与し、単離ストレスを負荷した。終脳におけるセロトニン濃度はトリプトファン給与によって有意に増加し、積算鳴き回数はトリプトファン給与によって減少傾向となることが示された。また、ストレス負荷によるドーパミンおよびセロトニン代謝産物比の右脳優位性は、トリプトファン給与によって緩和されることが認められた。これは2次解析の結果から、増加したセロトニンがドーパミン神経系の活動を緩和したためと考えられた。 これらの結果から家畜の情動を評価する上で、脳の左右差は重要な指標となりうることが示されるとともに、本指標がアニマルウェルフェア基準策定において生理的指標のひとつとなるものと考えられる。
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