研究課題/領域番号 |
23580375
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
相馬 幸作 東京農業大学, 生物産業学部, 准教授 (70408657)
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研究分担者 |
増子 孝義 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (50123063)
林田 まき 東京農業大学短期大学部, 生物生産技術学科, 講師 (80435255)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | エゾシカ / 一時養鹿 / 性別 / 年齢 / 肥育成績 / 枝肉成績 / 肉成分 |
研究概要 |
北海道では野生エゾシカの個体数管理の一貫として、野生エゾシカを生体捕獲し一時肥育を行う、食肉生産システム(一時養鹿)が稼働している。生体捕獲では様々な性別や年齢のシカが捕獲されることから、性別および年齢別の増体量と枝肉成績の差異を調べた。 供試動物は3月に前田一歩園財団所有地で生体捕獲したエゾシカ満1歳雌6頭、満1歳雄3頭、成雌6頭および成雄4頭とした。導入ジカは満1歳の雌雄と成雌を1群で、成雄は別施設に1群で飼育した。飼料は乾草を自由摂取させ、アルファルファ、ビートパルプ、圧扁トウモロコシおよび大豆粕を制限給与した。測定項目は飼料摂取量、増体量、枝肉成績およびロース肉成分とした。なお、肉成分分析は各区からランダムに3頭ずつ供試した。 その結果、体重増加の推移は雌雄や年齢にかかわらず、9月から屠殺時まで停滞がみられた。また、出産した成雌ジカは出産後の体重増加が見られなかった。増体量と日増体量有意差(P<0.01)がみられ、満1歳が最も高かった。枝肉重量と正肉重量は雌雄と年齢に有意差(P<0.01)がみられ、性別では雄が高く、年齢では成獣が高かったが、枝肉歩留と正肉歩留は有意差が認められなかった。部位別の肉重量は雌雄と年齢に有意差(P<0.01、P<0.05)がみられ、成雄が最も高かった(P<0.01)。有意差はなかったが満1歳雄と成雌が同程度、満1歳雌が最も低かった。ロース肉の一般成分について、年齢および性別による有意差はみられず、平均して水分74%、蛋白質22%、脂肪2%であり、牛肉や豚肉よりも高蛋白質・低脂肪であった。肉のミネラル含量は、100g当たり鉄が3.4mg、亜鉛が2.9mg、銅が0.1mgであった。鉄の含量は他の家畜の肉よりも多かったが、野生ジカの肉の報告値に比べ低く、屠殺時の放血処理方法が鉄含量に影響したものと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生体捕獲したエゾシカは、捕獲時に個体の選択が難しく、運搬時のストレスによる捕獲性筋症の発症や導入時の暴走により施設に衝突し骨折する事故などが生じる恐れがある。また、人に馴れていないため、導入から一ヵ月は取り扱いに注意が必要である。本年度は施設整備により衝突事故は生じなかったが、6月に妊娠していた雌ジカに起立不能が生じた。家畜保健衛生所の協力により、ヒツジの妊娠中毒に似た症状と診断され、肥育試験の給与飼料の品質による影響ではないことが判明した。また、出産後の雌ジカは増体が停滞し、雌エゾシカ増体特性であると推察された。また、導入個体の一部は12月まで肥育したが、10月以降増体がみられた。 また、本年度の研究においてエゾシカの年齢および性別による肥育成績の違いを明らかにすることができ、肥育特性では満1歳は肥育効果が認められるが成獣は増体が見込めず、子ジカを出産した雌ジカは出産後の増体が停滞した。産肉性では成獣の方が高く、性別では雄ジカが最も高かった。このため、生体捕獲した野生エゾシカの短期肥育において、成獣は肥育期間を短くし、満1歳は肥育期間を長くするように設定する方がよいと考えられた。 これらのことから、エゾシカの肥育特性について整理することができたとともに、雌ジカの増体特性が明らかとなり、短期肥育における管理上の課題についても検討する素地ができたと考えられ、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
生体エゾシカを短期肥育する意義について、最近では事業者の間でも疑問が持たれてきている。妊娠し出産した雌ジカの増体は臨めないことは、事業者の間でも感覚としてとらえていたものであるが、本試験において科学的に検証することができた。事業者の多くが建設業等の異業種からの参入であることが多く、大部分は濃厚飼料等の購入飼料に頼っていることと、生体捕獲時価は雌ジカの比率が多い現状において、飼育中の飼料代と収益とのバランスを考慮すると、短期肥育のメリットは低くなっている。しかし、エゾシカ肉を利用する飲食店や加工業者は、ハンター肉よりも安全・安心で放血等も含め一定の品質が期待できる短期肥育ジカの肉の提供を望んでいる。また、子ジカの需要も高く、これらの需要を満たすにはエゾシカの短期肥育は欠かせない。このため、生産コストを抑制を目的に、地域の畜産農家に倣い給与飼料に地場産の廃棄野菜や製造副産物を利用する試みが始まっている。 今後の推進方策としては、二つの観点が必要と考える。一つ目はエゾシカの肥育効果についての検討である。肥育による肉質の改善だけでなく、野生エゾシカよりも微量元素、特に鉄含量の変動が懸念されている。しかし、科学的な視点で検証が行われていないため、肥育前と肥育後のエゾシカの枝肉成績や肉質について検討が必要である。二つ目は、より安価な給与飼料による短期肥育の検討である。北海道は農業生産が高い地域であり、規格外野菜や農産物加工時に生じる粕類などの副産物も多く産出される。これらは肉牛育成にも活用されていることから、エゾシカの短期肥育に応用できると考える。 これら二つの観点を検証するための施設は本学にしかなく、人的、物理的観点から勘案しても順次研究を進めていかなければならない。このため、次年度は一つ目の観点であるエゾシカの短期肥育前後の枝肉成績および肉質について研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用について、消耗品として試験で使用する給与飼料の購入および飼料やエゾシカ肉の成分分析に関係する試薬等の購入を計画している。また、生体捕獲エゾシカについて、エゾシカ短期肥育業者への提供が優先されることから、捕獲時の天候等により試験に必要な個体数が得られないことが懸念される。このため、試験に必要な個体数が得られない場合は、同一地域で生体捕獲するエゾシカを有する牧場と連携し、エゾシカ導入を図ることも検討したい。 旅費については、研究遂行上必要な研究者の移動にしぼった。具体的には、関係機関との研究打合せ、エゾシカ解体時のサンプル採取と運搬作業に伴う学生の移動費用、研究成果の学会等での発表での支出を計画している。 その他支出として、肥育エゾシカの解体および食肉処理に関する費用、管理作業時に必要な管理機械、計量器具および管理施設(捕獲施設、飼料保管施設等)についての点検と修理、導入個体が死亡した時の検査と処分にかかる費用を中心とした支出を計画している。また、研究分担者間におけるのサンプルの輸送費、外部委託が必要な分析についての委託費(サンプル輸送費、分析費用)も計画している。
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