野菜残渣の飼料化をはかり、反芻家畜からのメタン生成を低減させることを最終目的として、ルーメン内微生物の亜硝酸還元能を増強するための研究を行った。日本在来のヤギ(平均体重約30 kg)に硝酸塩を含む飼料を給餌し、その添加限界量を調べたところ、10 g/日の硝酸塩を給餌すると亜硝酸中毒を引き起こされたので、それ以下の量の硝酸塩を給与し、ルーメン内微生物叢への影響を調べた。飼料成分を解析したところ、1日あたりの供与量は粗タンパク質78 g、粗脂肪12 g、NDF 143 g、灰分 50 g、および NFE 209 gであった。硝酸塩添加飼料の給与により、ルーメン内の揮発性脂肪酸の総生成量は低下したが、酢酸/プロピオン酸濃度比、アンモニア濃度、および乳酸濃度は増加した。リアルタイムPCRによる解析の結果、メタン菌、プロトゾア、および真菌類の総数が硝酸塩の給与により大きく減少することが示された。一方、ルーメン内の主要な細菌種または属の多くにおいては、その存在数は硝酸塩添加の影響をさして受けなかったが、 Streptococcus bovis および Selenomonas ruminantium の菌数は大きく増加した。更に、S. ruminantiumの硝酸還元酵素および亜硝酸還元酵素の遺伝子に特異的なプライマーを設計し、ルーメン内の遺伝子量を測定したところ、どちらの遺伝子量も硝酸塩の給与により増加した。これは、硝酸塩添加により硝酸・亜硝酸還元能を持つS. ruminantiumの菌株が増加したことを示唆する。従って、特に硝酸含量の高い飼料を反芻動物に給与した場合には、ルーメン内での硝酸・亜硝酸の還元において S. ruminantium が主要な役割を担うと考えられた。
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