食肉中のイノシン酸はと畜後のATP分解反応で生成する主要な旨味成分として知られている。本研究は食肉を構成する筋線維の型がイノシン酸含量に影響を与えているか、筋肉および単離筋線維を分析することで明らかにする。 23年度はウシの4種類の筋肉についてイノシン酸含量を測定し、速筋型筋肉は遅筋型筋肉よりもイノシン酸含量が高いことを明らかにした。この筋肉型によるイノシン酸含量の違いがウシ筋肉に特異的な現象ではなく食肉に共通する現象であることを確認するため、24年度は生体重80kgおよび110kgのブタより採取した6種類の筋肉について分析を実施した。その結果、ブタ筋肉においても速筋型筋肉は遅筋型筋肉より有意に高いイノシン酸含量を示し、ブタ筋肉でもウシ筋肉と同様に筋肉型によるイノシン酸含量の違いがあり、筋線維型の違いがその原因となることが示唆された。 25年度は同一の筋肉を構成する筋線維間での比較を行うため、単離筋線維の筋線維型決定方法とイノシン酸含量の測定方法を作成した。それらの方法を用いて、ブタ大腰筋より単離した筋線維について検討した結果、イノシン酸含量はその筋線維型と有意な関係が認められなかった。筋肉間で認められた筋肉型による違いが筋線維間では見られなかった理由としてpHの影響が考えられた。すなわち、23、24年度の試験では筋肉型によって乳酸含量およびpHに違いがあり、それがイノシン酸生成量における違いの一因であると推察された。一方、25年度に行った単離筋線維の試験は同一筋肉内の筋線維を試料としているため、と畜後の貯蔵期間中に生成した乳酸が筋線維間を移動し、結果としてイノシン酸生成量に差を生じさせなかったものと考えられた。これらの結果は、筋線維型の効果がと畜後に生成する乳酸量の違いに影響されたものであり、食肉の味を制御するにはpHを考慮することが重要であることを示していた。
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