研究課題
本研究は、子宮内膜炎罹患牛の感染細菌から放出されるリポポリサッカライド(LPS)の卵巣機能への影響を解析するため、卵胞構成細胞である顆粒層細胞および卵胞膜細胞のステロイド産生能におけるLPSの影響を解析した。本年度においては、小卵胞あるいは大卵胞から採取した顆粒層細胞のエストラジオール産生およびプロジェステロン産生におけるLPSの影響を解析した。小卵胞から採取した未成熟の顆粒層細胞を体外培養系にて成熟させる過程におけるLPSの影響をみたところ、エストラジオール産生は対照区に比べLPSの処理濃度が1.0, 5.0および10 μg/mlで有意に減少したのと同時に、このホルモン産生に必須の酵素であるアロマーゼの遺伝子発現も抑制した。一方、プロジェステロン産生はLPSによって抑制させることはなかった。また、顆粒層細胞数もLPSによって減少しなかった。LPS受容体であるTLR4, CD14およびMD2の遺伝子発現を解析したところ、いずれも因子もLPS処理により発現が増加した。大卵胞から採取した成熟顆粒層細胞において、エストラジオール産生は対照区に比べLPS処理区(10 μg/ml)で有意に減少したのと同時にアロマターゼの遺伝子発現も抑制した。細胞数およびプロジェステロン産生においては、LPSによる抑制効果は認められなかった。LPS受容体発現においては、LPS処理による影響は認められなかった。これらの結果から、顆粒層細胞におけるLPSの効果として、1)エストラジオール産生およびアロマターゼ遺伝子発現を抑制すること、2)細胞数およびプロジェステロン産生能には影響を与えないことが卵胞発育に関わらず共通の現象であることを明らかにした。以上、LPSは顆粒層細胞のエストラジオール産生を阻害することにより、卵巣機能を障害している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究計画に沿って研究が進められていると考えられる。
昨年度は、子宮内膜炎罹患牛から子宮組織およびそれに付随する卵巣組織の採取を定期的に行ったが、採取可能サンプルが少数であった。今後は解析するサンプル数をさらに増やすために本サンプル採取の効率化を目指すとともに継続的にサンプル採取を行う。平成23年度の研究計画である顆粒層細胞のステロイド合成におけるLPSの影響解析(卵胞発育モデル)については、ほぼ終了しつつある。今後は「排卵モデル」および「黄体形成モデル」における顆粒層細胞および卵胞膜細胞の機能におけるLPSの影響解析を重点的に行うため、卵胞からの細胞採取の効率化および培養技術の均一化を強化するとともに、解析機器類の技術習得に努める。考えられる方策として、(1)子宮内膜炎罹患牛からの組織採取における獣医師の配置検討、(2)卵胞からの細胞採取時酵素処理時間の検討、(3)細胞培養におけるコンタミの軽減、(4)共焦点レーザー顕微鏡による細胞内因子の視覚化を迅速かつ効率的に行う技術の向上などについて、重点的に行う。
昨年度の研究計画の中にある卵巣内発育卵胞の卵胞液中LPS濃度の測定を継続的に行うため、その測定に関する試薬などに経費を使用するとともに、遺伝子発現関連消耗品および培養関連消耗品に経費を使用する。
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Cytokine
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