ニワトリ胚の視床下部-下垂体-甲状腺軸を研究対象として,この軸の構成要素が,発生過程のどの時期から機能するのかを,特に下垂体と甲状腺に注目して,主に分子生物学的手法と組織化学的手法を用いて明らかにすることを目的に,3年間にわたる研究を行った。まず,下垂体側からのアプローチとして,甲状腺刺激ホルモン濃度の測定法を開発した。平成25年度には血液試料の測定を行い,血中濃度が孵化に向かって急激な上昇を示すことがわかった。また,平成24年度までに下垂体前葉に局在する甲状腺刺激ホルモンβサブユニットの変動をリアルタイムPCRで定量した結果,血中濃度と同様に孵化に向かって急激な上昇を示すことがわかった。一方,甲状腺側からのアプローチとして,甲状腺特異的因子(チログロブリン,ペルオキシダーゼ,甲状腺特異的転写因子,ヨウ素輸送体,甲状腺刺激ホルモン受容体)について,平成25年度までにリアルタイムPCRによる検出を行った結果,前4者は孵化に向かって次第に増加を続けるのに対し,甲状腺刺激ホルモン受容体の増加傾向はそれほど顕著でなく,孵卵中の時期により変動が認められた。In situ hybridizationおよび免疫組織化学的検討においても,同様の傾向が認められた。また,血中甲状腺刺激ホルモンは孵卵期間を通じて血中に存在し,孵化に向かって濃度が上昇すること,甲状腺刺激ホルモンが機能するために必要な脱ヨード酵素の遺伝子も,孵卵期間を通じて発現していることが平成25年度までの検討で判明した。これらの結果から,血中甲状腺ホルモン濃度が高まる孵化時には下垂体からのホルモン分泌刺激が主要な役割を担っているが,下垂体による積極的な制御が行われる以前から甲状腺ホルモンは血中に存在し,活性化されて末梢組織で作用している可能性が示唆された。
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