研究課題
マウス体細胞核移植(SCNT)胚の細胞質中に脱イオン化BSA(d-BSA)を注入すると、その胚盤胞期への着床前発生が著しく促進されることを申請者は初めて明らかにしている。今年度は、このようなd-BSAの促進効果について、1,d-BSA特異的でしかもSCNT胚でのみ発揮されるのか、2,d-BSAの至適処理条件を決定、3,SCNT胚の発生を促進することが知られているヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)であるトリコスタチンA(TSA)やスクリプタイド(Sc)処理とd-BSA注入との組み合わせ処理効果を検討することを目的とした。得られた成果を以下に挙げる。1,6% d-BSA溶液を除核MII期卵母細胞に体細胞核を移植した直後に注入することによって、そのSCNT胚の胚盤胞期への発生が最も促進され、前核期SCNT胚に注入しても促進効果は全く発揮されないことを明らかにした。2,d-BSAを体外受精胚および単為発生胚に同様に注入しても発生促進効果は観察されなかったことから、この効果は、SCNT胚特異的に発揮されることが示唆された。3,脱イオン化処理血清グロブリンには効果は無く、そして溶媒としてトリフルオロ酢酸とアセトニトリルを用いたProtein Aカラムによって微量の混入物質を除去したd-BSAに活性は維持された。この結果から、d-BSAの促進活性はアルブミン分子特異的であることが示唆され、酸およびアセトニトリルに耐性であることも判明した。4,d-BSAの効果は、TSAあるいはScと組み合わせることによってさらに促進された。5,SCNT胚でのヒストン(H3K9、H4K12)のアセチル化がd-BSA注入によって促進されることが免疫蛍光染色法によって明らかとなった。このことから、SCNT胚のエピジェネティックス調節による遺伝子発現がd-BSAによって影響される可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
マウス体細胞核移植(SCNT)胚の発生に及ぼすd-BSA注入の促進効果について、今年度は、1,この効果はd-BSA特異的でしかもSCNT胚でのみ発揮されること、2,d-BSA注入の至適条件を決定、3,促進活性はアルブミン分子自体にあり、酸およびアセトニトリル処理によっても保持されること、そして4,d-BSAの効果がHDACiであるTSAあるいはScによって助長されることを明らかにすることができた。さらにd-BSAはSCNT胚のエピジェネティックス調節による遺伝子発現に影響を及ぼすことが示唆された。従って当初の計画(1~4)以上の成果を得ることができたと判断される。
1,卵核胞(GV)期卵母細胞の抽出液で処理した体細胞核を移植したマウスSCNT胚の発生、特に着床後の発生が促進されることから、GV卵抽出液処理体細胞核を移植したSCNT胚の発生および初期化に及ぼすd-BSA注入の効果を明らかにする。2,SCNTによる体細胞核の初期化が核移植直後の胚細胞質内にd-BSAを注入することによって促進される。しかし、前核期胚に注入してもそのような効果は発揮されないことから、前核期前のSCNT胚の細胞質の中で、前核期SCNT胚に比べてd-BSAにより多く結合する物質を免疫沈降法によって探索する。この研究から体細胞核の初期化に関与する胚細胞質因子の同定が期待される。
東北関東大震災によって、当初交付される費用が7割まで削減されることが通知されたことから、この費用内での計画をたて研究を遂行したことから、約45万円を次年度に繰り越すことになった。この額を含め、次年度の研究費を上記推進方策に従った研究に必要となる試薬、器材そしてマウスなどの消耗品の購入、学会や誌上での研究成果発表に使用する。
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