研究課題
コシジロヤマドリ精子の運動特性に関する基礎的知見を得るため、本実験では、電位依存性Ca2+チャネル拮抗薬であるベニジピンが鶏精子の運動性に及ぼす影響を検討した。異なる濃度のベニジピン添加が、精子の運動性に及ぼす影響を検討したところ、添加濃度を高めても、運動性に対する影響は見られず、30℃では70%前後の運動性を維持し、40℃では10%前後まで抑制された。10μMベニジピンと2 mM Ca2+添加後の精子の運動性の推移を見てみると、30℃では、ベニジピン添加区と対照区との間に差異は認められず、高い値を維持していた。これに対して40℃では、Ca2+を加えるまでベニジピン添加区と対照区のいずれの場合も、運動性は抑制されていた。その後Ca2+を添加するとベニジピンが存在するにもかかわらず運動性は回復した。しかし、時間の経過とともに対照区に比べて運動性の低下が認められた。このような現象は、Ca2+の代わりに脱リン酸化酵素の阻害剤であるカリクリンA(100 nM)を添加した場合では認められなかった。すなわち、ベニジピン添加後、対照区と添加区へカリクリンAを添加すると、30℃においては、対照区の運動性は70~80%前後の値を維持していた。ベニジピン添加区も対照区と同様の運動性を示し、カリクリンA添加後も運動性を継続したままであった。同様に40℃においても、ベニジピン添加区の精子の運動性は60%前後の値を保持していた。カリクリンAとベニジピンの添加順序を逆にしても同様の傾向を示した。以上の結果から、鶏精子の40℃においては不動化現象の回復には外因性のCa2+が関与していること、そのCa2+の一部は細胞膜の電位依存性Ca2+チャネルを透過して流入するものの、主要な流入経路は別にある可能性が推察された。このとこは、同じキジ科のコシジロヤマドリ精子にも当てはまる可能性が強く示唆される。
2: おおむね順調に進展している
ニワトリ精子をコシジロヤマドリのモデル精子として使用し(その理由は、コシジロヤマドリは季節繁殖動物なので、3~4月のごく限られた時期にしか精子を採取できない)、温度による可逆的不動化現象について詳しく追究することが出来た。しかし、具体的に電位依存性Ca2+チャネル以外のどのチャネルが深く関与しているかについては明らかに出来なかった。
精子の原動力となっている鞭毛は、チューブリン分子からなる、いわゆる「9+2」の微小管構造、すなわち2本のシングレット中心微小管を9本のダブレット微小管が取り囲む構造を基本的に持っている。まず断面からダブレット微小管を見ると、それは13個のチューブリン分子からなるA小管と、11個からなるC型をしたB小管からなる。鞭毛基部の中心小体は、B小管の外側に、さらにC形をしたC小管を持つトリプレット構造をしている。微小管はチューブリンの重合体で、αチューブリンとβチューブリンからなる規則正しく重合してできた円筒状の構造体である。チューブリンは、アセチル化、リン酸化、パルミトイル化、脱チロシン化、Δ2化、ポリグルタミン酸化、ポリグリシン化などの翻訳後修飾を受けるため、極めて多様である。アセチル化以外の修飾は、微小管表面に位置するチューブリンC末端領域に集中し、微小管表面の多様性を生み出している。修飾による微小管表面の多様性は、微小管と微小管結合タンパク質との相互作用に強い影響を与え、微小管の安定性や分子モーターの移動先などを制御している。細胞内には、微小管の伸長を促進させる因子と短縮を促進させる因子の双方が存在しており、組織や細胞あるいは細胞周期などに応じて微小管のダイナミクスが調節されている。このうち前者を微小管安定化因子、後者を微小管不安定化因子あるいは微小管崩壊因子と総称している。これまで述べてきたように、鞭毛軸糸のチューブリン分子の安定化・不安定化が運動調節に関与している可能性も否定出来ない。そこで来年度の本実験では、精子に微小管重合阻害剤であるIndibulinを添加し、精子の可逆的不動化現象と微小管重合との関係を追究する予定である。
各種試薬等の購入に充てる。
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