ウシ初期発生胚の培養法(低グルコース・低酸素等)は非常に特殊である。ウシ胚培養系の改善のため、さまざまな物質のウシ胚における代謝が明らかとなっているが、核酸の主要構成成分である塩基については未解明な点が多い。本研究ではプリン塩基に注目し、ウ シ胚におけるこの物質代謝を明らかにすることでウシ胚培養系の改良に新規の情報をもたらすとともに、プリン塩基のウシ胚発生に及ぼす影響のメカニズムについて検討する。本年度はウシ胚の発生を著しく阻害するアデニンがウシ胚(特に1細胞期胚)の核相変化に与える影響について検討した。ウシ授精後18時間から培養液に1mMのアデニンを添加すると、初期卵割は有意に抑制される。初期卵割が抑制されたウシ1細胞期胚を固定し、酢酸オルセインで染色したところ、明瞭な前核や染色体は見受けられず、凝集した染色質が観察された。さらにこれらの胚の核膜の存在を明らかとするために、Lamin A/C抗体を用いて免疫染色するとともに、DNAをDAPIで染色した。その結果、卵割停止胚では核の断片化が生じており、これが発生停止の原因であることが示唆された。また同じプリン誘導体であるオロモウシンを同時期の胚培養液に添加すると、アデニンの場合と同じく初期卵割を著しく抑制するが、免疫染色観察の結果、アデニン添加に見られる核の断片化は見られなかった。
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