研究課題
本研究の目的は、1.イヌの乳腺腫瘍の発症機構について、遺伝性乳癌原因遺伝子BRCA2の変異を基点とするゲノム不安定化に焦点を あてて、腫瘍細胞において特定の遺伝子に変化が認められるかどうかを調べること、2.変異が予想されるc-MYC(MYC)等 の癌遺伝子やいくつかの癌抑制遺伝子、ゲノム安定化遺伝子の機能解析を通じてイヌの乳腺腫瘍発症機構の解明をめざすこと、とした 。イヌのMYCについて、cDNAをレトロウイルスベクターに組み換えてイヌの細胞に遺伝子導入し、細胞増殖等への影響を観察した。さらに、MYC等を対象にイヌ特有の機能に関与する構造の予測を行うため、コンピュータを利用した構造モデリングによる解析を進めた。BRCA2のエキソン11にコードされる8個のBRCリピートは、組換え酵素Rad51を結合することによってDNA損傷修復で重要な役割を担っている。イヌの乳腺腫瘍組織からゲノムDNAを抽出し、エキソン11の塩基配列を解析した結果10種類のミスセンス変異を発見した。そのうち2種類のミスセンス変異(T1425P, K1435R)はBRC repeat 3 (BRC3)に存在した。プルダウン法、酵素抗体法、およびツーハイブリッド法により、変異型BRC3とRAD51との結合性および変異型BRC3のRAD51オリゴマー形成に与える影響を調べたところ、いずれの変異もBRC3の機能に影響を与えたが、特にT1425P変異体では本来のBRC3の機能が失われていたので、腫瘍の発症と関連することが示唆された。
3: やや遅れている
イヌ乳腺腫瘍における癌関連遺伝子重複の解析および発現の解析については、定量的PCR法の確立とコピー数解析、及び分担者と協力して細胞等材料の準備やそのゲノムDNAの抽出作業を進めたが、現在までのところ特徴的なコピー数変化を示す遺伝子の同定には至っていないため、達成度はやや遅れている。イヌMYC等の癌遺伝子の機能解析については、 候補遺伝子であるMYC等を対象にイヌ特有の機能に関与する構造の予測を進めたが、当初計画していた培養細胞等を用いた各種の機能解析は進んでいないため、達成度はやや遅れている。イヌのBRCA2についてゲノム不安定化に関係する可能性のあるBRCリピート3の変異を発見し、この変異がRad51との結合に与える影響等を解析して腫瘍の発症と関連することが示唆された点は評価に値する。
1.イヌ乳腺腫瘍における癌関連遺伝子重複の解析および発現の解析 平成24年度に引き続き、定量的PCR法の確立とコピー数解析を行う。乳腺腫瘍組織の収集を継続し、これらを材料として解析する 。ヒトのMYC等は、転座等によって遺伝子発現が亢進する結果、癌遺伝子として作用する事例も知られている。上記で調べたコピー数増加とは関係しない転写活性化が起こっている可能性を検討する。TaqMan法を用いた常法により、定量的PCRで測定する。2.イヌMYC等の癌遺伝子の機能解析 前年度に実施した候補遺伝子におけるイヌ特有の機能に関与する構造の予測を元に、機能解析を行う。 H24年度に続いて今年度も細胞レベルでの解析を行い、in vitroにおける増殖能(経時的に培養細胞を回収して計測して解析)やトランスフォーメーション能(コロニー形成等)を調べる。
次年度に使用する予定の研究費が生じた状況については、物品費、旅費、人件費・謝金、その他、のいずれも年度当初に予定していた額を下回る結果となった。(1)物品費については、古くて使用できないと考えていた高価な試薬(ウシ胎子血清等)が実際には使用できたなどの理由により節約できたことによる。(2)旅費については、参加予定だった研究集会について別の資金から旅費が支給されたことや、研究分担者との打ち合わせについて他の旅行から続いたために片道分の航空運賃が節約できたことや、インターネット会議システムを利用して分担者と連絡をとったために旅行会数を減らしたことによる。(3)人件費・謝金については、依頼を予定していた業務を代表者と分担者が行ったことによる。(4)その他につ いては、研究材料の分担者とのやりとり等に際して、予定していたよりも送料が安くすんだり、他の研究の材料といっしょに輸送した ために節約できたこと等による。 次年度の使用計画については、上記で生じた残額を物品費の購入および旅費に使用したいと考えている。癌関連遺伝子重複の解析につ いて、H24年度の達成度がやや遅れていることもあり、次年度は重複遺伝子を調べる数を当初の予定よりも増やすこととし、その ための材料購入費にあてたい。また、今年度は分担者と直接会って研究の打合せを行う予定であり、そのための旅費が必要となる。 その他の研究経費については、当初の予定どおりに使用する計画である。
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BMC Res. Notes
巻: 5(1) ページ: 173
10.1186/1756-0500-5-173
PLoS One
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10.1371/journal.pone.0045833