研究課題/領域番号 |
23580400
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
長野 功 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40283296)
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研究分担者 |
鎌足 雄司 岐阜大学, 生命科学総合研究支援センター, 助教 (70342772)
呉 志良 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90313874)
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キーワード | 旋毛虫 / 免疫抑制 / 分泌タンパク質 / 組換えタンパク質 / サイトカイン / 高次構造解析 / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
免疫抑制機構の解析 今年度においては、53kDaタンパク質を免疫細胞に投与して、その影響を細胞内の免疫関連タンパク質の発現で検討した。まず、マウスの単球系培養細胞であるRAW 264.7細胞に53kDa遺伝子を組込みこんだ発現ベクターを導入し、53kDaタンパク質を強制発現させた。その後、細胞をLPSで刺激し、産生されたサイトカインであるTNF-αの量をELISAで計測した。その結果、エンプティーベクターを導入したRAW 264.7細胞のTNF-α産生量に比べて、53kDa遺伝子導入細胞では約4-6倍に産生量は増加していた。また、RAW 264.7細胞およびマウス脾細胞の培養液に直接組換えタンパク質を投与し、細胞の培養後、LPS等の刺激による培養上清中のサイトカインの発現量をELISAで測定した。その結果、RAW 264.7細胞では、組換えタンパク質投与により形態に変化が見られ、細胞のTNF-αおよびIL-6産生量が有意に減少した。また、脾細胞においてもIFN- γおよびIL-4産生量が有意に減少した。 構造生物学的解析 安定同位体標識した大腸菌による組換え53kDaタンパク質を用いNMR法を行ったが、解析困難であった。これは当タンパク質の分子量が大き過ぎるためであると考えられた。よって、今年度はX線結晶構造解析による構造解析を主として検討を行った。まず、大腸菌による組換えタンパク質を用いて、結晶化に最適な条件を約200種類の異なるバッファー条件下で検討を行った。しかし、すべての条件下でタンパク質は無反応か凝集化を起こし、結晶化に最適な条件は決定できなかった。これは組換えタンパク質の精製度が低いためであると考え、アフィニティークロマトグラフィー精製の後にイオン交換クロマトグラフィーによる精製を加えた。その結果、極めて高純度の組換えタンパク質の精製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
免疫抑制機構の解析 今回の研究では培養細胞を用いて旋毛虫が分泌する53kDaタンパク質の免疫抑制機構を検討する。今年度においては、培養細胞に旋毛虫由来の53kDaのタンパク質を投与した場合の、サイトカイン発現の検討を行った。その結果、ほぼ予定通りの研究成果を達成することができた。 構造生物学的解析 タンパク質の生理活性機能はその3次元的な構造(立体構造)に依存している。タンパク質の立体構造を解析することにより、どのようなメカニズムによりそのタンパク質が活性を示すのか、また活性部位を実際に目で見て解析することが可能である。構造決定法にはX線結晶構造解析とNMR法がある。今年度においてはNMR法を試みたが、当該タンパク質の分子量が大き過ぎるためと考えられるが、十分な結果を得ることができなかった。よって、X線結晶構造解析における条件検討を行った。しかし、組換えタンパク質の精製度が低いことが新たに判明し、目的とする結果が得られなかった。よって、今年度は精製度に関して検討を行い、より高純度のタンパク質を得ることができた。 以上のように、免疫抑制機構の解析はほぼ予定通りの結果を得ることができたが、構造生物学的解析では十分な結果は得ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
免疫抑制機構の解析 前年度では、組換え53kDaタンパク質をマウス由来の脾細胞およびマクロファージ系培養細胞に投与して、LPS等の刺激による培養上清中のサイトカインの発現量をELISAで測定したが、今年度はよりサイトカインの種類を増やして(IFN-γ、TNF-α、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-12、IL-13およびIL-18) その発現量をELISAで測定する。同時に、リアルタイムPCRを用いて上記サイトカインの発現量を調べる。また、組換え53kDaタンパク質を直接マウス腹腔内に接種し、免疫反応におよぼす影響の検討も試みる。一方、今までは大腸菌を用いた組換えタンパク質を用いて、機能解析実験を行ってきたが、大腸菌体に存在するエンドトキシンの影響を完全には除外できない。よって、今年度においては、小麦胚芽による無細胞発現系で作成した組換えタンパク質も用いて生理機能活性の検討を行う。 構造生物学的解析 今年度においては、まずX線結晶構造解析による構造解析を行い、三次構造を決定する。また構造解析と並行して、プルダウンアッセイにより53kDaのタンパク質と相互作用するタンパク質を探索する。こうして得られた候補タンパク質との相互作用は、表面プラズモンレゾナンス(SPR)法により確認し、結合定数を算出する。また、NMR化学シフト摂動法による相互作用部位の同定を行い、さらに変異体の作製により相互作用部位の確認を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
免疫機能の解析に必要な消耗品経費は、組織培養用試薬・器具の購入費である。また、タンパク質の発現・精製用として、小麦胚芽無細胞タンパク質合成試薬およびキット、タンパク質濃縮用フィルター、アフィニティークロマトグラフィー用試薬・器具、イオンクロマトグラフィー用試薬・器具、およびウエスタンブロット用試薬の購入費が必要である。また、リアルタイムPCR用試薬・器具およびサイトカインELISAキットの購入費が必要である。構造生物学的解析に必要な消耗品経費は、X線結晶構造解析実験用として、結晶化スクリーニング用プレート等が必要である。タンパク質の相互作用解析にはSPR固定化試薬、SPRセンサーチップ等が必要である。また、旅費として成果発表の学会旅費、その他、論文の投稿料および校閲費が必要である。
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