研究課題
好中球は白血球の6割を占める自然免疫系の一員であり、活性化するとスーパーオキシド、過酸化水素、次亜塩素酸などの活性酸素を活発に産生する。本研究は、次亜塩素酸の産生を触媒するミエロペルオキシダーゼのノックアウトマウス (MPO-KOマウス)が、カンジダ菌などの生菌感染時だけでなく、酵母細胞壁粗画分であるザイモザンを肺投与しても重篤な肺炎を発症するという興味深い現象のメカニズムを探ることを目的としている。MPO-KOマウスの好中球が野生型好中球よりもMIP-2を多く産生することが判明し、このことにより肺中のMIP-2量が過剰になり、多量の好中球が集積し炎症が重篤化する可能性が高い。そこで、MPO-KO好中球がMIP-2を過剰産生するメカニズムを追求した結果、好中球がザイモザンを貪食することによってMIP-2の遺伝子発現が助長されることや、MIP-2産生が細胞内シグナル伝達系のうちPI3キナーゼ、p38 MAPキナーゼ、およびERK1/2によって制御されていることが明らかになった。一方、MPO-KOマウスの肺炎重篤化は、ザイモザンに特異的な症状ではなく、カンジダ死菌を投与しても同様に観察された。さらに、好中球からのスーパーオキシド産生を触媒するNADPHオキシダーゼのノックアウトマウスも、MPO-KOマウスと同様に、ザイモザンによって肺炎が重篤化した。以上の23年度の研究結果は、各種炎症性疾患の発症における好中球機能異常のリスクを知るという重要な意義を持つ。
3: やや遅れている
23年度の当初研究計画【1】MPO 欠損好中球がMIP-2を過剰発現するシグナル伝達機構の解析、【2】CGD マウスのザイモザン誘発性肺炎の重篤化機構の解析、および【3】カンジダ死菌による肺炎誘発機構の解析、を精力的に遂行できた。これらの解析が遅延している理由は、当初は予期していなかった非常に興味深い新知見が得られたことにより、当初計画よりも 実験すべき項目が増加したためである。このような発展的遅延であるから、自己評価は決して低くない。当初の計画以上に発展させるために、23年度の実施項目として立案したこれらの研究計画を24年度も継続する方針である。
当初は24年度から開始する予定であった研究計画、【4】MPO-KO マウスの炎症は他の炎症モデルでも、ザイモザン誘発性肺炎と同様のメカニズムで進行するのか?、【5】KC と MIP-2 がザイモザン肺炎発症の引き金となった後、続いてどのようなサイトカインが肺炎を進行させていくのか?、という副題は、発展しつつある当初の23年度の研究計画が完了後ただちに開始し、本研究の目的である各種炎症性疾患の発症における好中球機能異常のリスクを暴いていく。
当初の24年度助成金費目別内訳に準じて、物品費、旅費、人件費、その他を適正に使用する。本研究は多種の高額な試薬類を必要とするため、24年度も消耗品の購入を総額の半額以上に設定しており、50万円以上の備品は購入しない。
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http://yaratani.sci.yokohama-cu.ac.jp/