研究課題
好中球は自然免疫を担う白血球であり、スーパーオキシド、過酸化水素(H2O2)、次亜塩素酸(HOCl)などの活性酸素を産生して、感染菌の殺菌に働いている。ミエロペルオキシダーゼは、好中球のみに存在する酵素であり、H2O2からHOClが産生する反応を触媒する。本研究は、次亜塩素酸の産生を触媒するミエロペルオキシダーゼのノックアウトマウス (MPO-KOマウス)が、生菌感染時だけでなく、酵母死菌の成分であるザイモザンを肺投与しても重篤な肺炎を発症するという興味深い現象のメカニズムを探ることを目的としている。平成23年度の研究では、MPO-KOマウスの好中球が野生型好中球よりもMIP-2を多く産生することを突き止め、これが原因で肺中のMIP-2量が過剰になって、さらに多量の好中球が集積し炎症が重篤化する可能性が高いことを明らかにした。そこで、24年度の研究は、ザイモザンの刺激を受けたMPO-KO好中球がMIP-2を過剰産生するメカニズムの解明を重点的に行った。その結果、1.MPO-KO好中球ではMIP-2の遺伝子発現が上昇していること、2.その遺伝子発現はERK1/2→IkB→NFkBのシグナル伝達系を介していること、3.MPO-KO好中球では2のシグナル伝達系がより強く活性化されるためにMIP-2の遺伝子発現が上昇すると考えられること、4.MPOの欠損に起因するH2O2の蓄積がERK1/2をより強く活性化し、さらに同欠損に起因するHOCl産生の欠如がIkBをより強く活性化している可能性が高いこと、などの多くの重要な知見を得た。これらの知見は学術論文としてまとめた(Tateno 他)。以上の研究成果は、各種炎症性疾患の発症におけるMPO欠損のリスクとそのメカニズムを知るための端緒を示した点において重要な意義を持つ。
3: やや遅れている
当初立案した研究テーマのうち、1.MPO 欠損好中球がMIP-2を過剰発現するシグナル伝達機構の解析、について、当初は予期していなかった非常に興味深い新知見が得られたため、この研究を重点的に進め学術論文としてまとめるに至った。この研究に時間を要した結果、2.CGD マウスのザイモザン誘発性肺炎の重篤化機構の解析、3.カンジダ死菌による肺炎誘発機構の解析、4.MPO-KO マウスの炎症は他の炎症モデルでもザイモザン誘発性肺炎と同様のメカニズムで進行するのか?、というテーマの研究の進行が遅れている。ただし、いずれも着実に成果が得られつつあり確実な発展が期待できる。
現在までの達成度の欄に記載したように、本研究開始時に掲げたサブテーマは、少々遅延が認められるものの、いずれも着実に成果が得られつつある。したがって、25年度はこれらの研究に精力を注ぎ、そのすべてをまとめ、本研究の目的である各種炎症性疾患の発症における好中球機能異常のリスクを暴いていく。
物品費、旅費、人件費、その他を従来どおり適正に使用する。本年度も多種多様の高額な試薬類を必要とするので、消耗品の購入を総額の半額以上に設定した。また、国外学会発表を立案しているので、そのための旅費も計上した。なお、50万円以上の備品は購入しない。
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