好中球は自然免疫を担う白血球であり、種々の活性酸素を産生して病原体の殺菌に働いている。具体的には、食細胞NADPHオキシダーゼの触媒により酸素からスーパーオキシド(O2-)が産生され、O2-は過酸化水素(H2O2)に代謝され、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)の触媒によってH2O2から次亜塩素酸が産生する。本研究は、MPOのノックアウトマウス (MPO-KOマウス)が、生菌感染時だけでなく、酵母死菌成分であるザイモザンを肺投与しても重篤な肺炎を発症するという興味深い現象のメカニズムを知ることを目的とした。平成23年度は、MPO-KOマウスの好中球が野生型好中球よりもMIP-2と称するケモカインを過剰産生することが炎症重篤化の一因であることを突き止め、学術論文としてまとめた。24年度は、ザイモザンで刺激されたMPO-KO好中球ではSyk→ERK1/2→NFkBのシグナル伝達経路が過剰に活性化されるためにMIP-2遺伝子発現が上昇していることなどの重要な知見を学術論文としてまとめた。25年度は、三大真菌感染症に挙げられるカンジダ菌の死菌をMPO-KOマウスに投与してもザイモザン同様の重篤な肺炎を発症することを突き止め、その発症メカニズムも解析して学術論文としてまとめた。26年度はMPOの上流に位置する食細胞NADPHオキシダーゼのノックアウトマウスにザイモザンやカンジダ死菌を投与してもMPO-KOマウスと同様の症状が発症することを突き止めた。しかし、症状が類似しているにも関わらず、ケモカインの産生パターンがMPO-KOマウスと大きく異なるという予想外の興味深い結果が得られたため、両マウスの比較解析を継続する所存である。以上の成果は、活性酸素産生欠損という好中球の機能異常と炎症性疾患発症との因果関係を示した点において意義深い。
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