研究課題/領域番号 |
23580407
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
日下部 健 山口大学, 農学部, 准教授 (20319536)
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研究分担者 |
岡田 利也 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (00169111)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 流産 / 脂質代謝 / 妊娠生理 |
研究概要 |
自然流産モデルにおける脂質代謝因子および関連細胞の動態変化について解析を行った。結果:1)流産胎盤ではトリグリセリドの有意な上昇が確認され、脂肪滴の高度な分布を脱落膜、変性した迷路部、らせん動脈周囲に認めた。電子顕微鏡観察では、らせん動脈内に血小板の集積、血管周囲に脂肪滴を有する泡沫状細胞を認めた。2)ASP脂質取り込み経路の重要因子であるカルボキシペプチダーゼ N、C5L2レセプター、PI3K、ジアシルグリセロールアシル基転移酵素の転写レベルは、流産胎盤で有意な増加を示さなかった。一方、血管内でトリグリセリドを分解するリポタンパクリパーゼの転写レベルは亢進しており、遊離脂肪酸の新規合成が促進している可能性が示唆された。3)流産胎盤では抗酸化物質であるglutathione peroxidase 1の転写活性が亢進しており、毒性を有する過酸化脂質の生成・拡散の防御機構の存在が示唆された。 流産発症後の胎盤における、脂質代謝系の経時的な変化を検討するため、マウスの胎子除去手術を行った。妊娠10日に反間膜側から子宮壁を切開して胎子を除去し、腹壁を閉じて0(対照群)、6、24、48時間後に胎盤を採取・解析した。結果:1)胎盤は経時的に組織変性を見せ、迷路部では母体血液の貯留・凝固が顕著であった。血液貯留部の周囲では脂肪滴を持つ遊走性細胞が観察された。2)Adipsinは対照群と比べ、48時間では著明に減少していた。3)胎子除去後、F4/80陽性のマクロファージが認められ、特に脱落膜の血管周囲で増加していた。 Adipsin/ASP経路関連因子は流産後に減少していた。流産直後の検討は必要であるが、少なくとも流産が発症してしばらくした胎盤では、この経路の機能的関与は乏しいものと考えられる。正常妊娠過程を含め、時期を限定してadipsin/ASP経路の関わりを検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデルマウスの種類については若干の変更があったが、調査対象については当初の予定通りに行われた。また、次年度の課題である遺伝子導入モデルの作成のため、本年度中に機器の導入、GFP標識の組換え遺伝子の作成、および組換え実験実施環境の整備をおおむね完了させた。次年度の実験計画にスムーズに移行できる状態である。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子導入装置を利用してin vitro、in vivoの実験系を当初の予定通りに作成し、asipsin/ASP系の流産機序との関連性、および正常妊娠機序における役割について検討する。 Adipsinから誘導される生理機序としてはASP脂質取り込み経路以外に、補体系や貪食機序の活性化、血液凝固系とのクロストーク経路がある。また、栄養膜細胞の分化にかかわる可能性も考えられるため、上記の実験系を用い、視野を広くもって生殖生理学的な検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.In vitroでの検討:マウス胎子線維芽細胞、栄養膜幹細胞などにadipsin遺伝子を一過性発現させ、脂肪細胞、栄養膜細胞の分化への影響を解析する。2.In vivoでの検討:マウス胎盤にadipsin遺伝子を一過性発現させ、妊孕性の変化および胎盤の形態・生化学・分子生物学的解析を行う。3.必要に応じてsiRNAを用い、in vitro・vivoでadipsinの機能抑制によって影響される細胞学的・生殖生理学的機序を探る。
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