研究課題/領域番号 |
23580411
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
横須賀 誠 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (90280776)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 単一嗅球 / キンカチョウ / 鼻腔 / 嗅上皮 |
研究概要 |
[ 目的 ] 野生のスズメ目(ハシブトガラスやヒヨドリ)がもつ"単一嗅球"は、左右が癒合した嗅球でありながら左右の嗅神経束の投射を独立に受容し、限定された嗅細胞を持つことと予想されることから、動物の嗅覚の進化と機能を新しい視点から考察する研究モデルになると期待される。本研究は、実験動物であるキンカチョウ(スズメ目)の嗅覚系を解剖学的に解明して、単一嗅球のモデル動物の基盤を確立する[ 研究実績 ] 平成23年度は、一般組織染色、免疫組織化学染色、電子顕微鏡によるキンカチョウの鼻腔、嗅上皮、嗅球の解剖・組織学的特性、生化学的特性、超微細構造の解析を行い、すでに明らかとなっているカラスやヒヨドリの所見と照合して"単一嗅球"をもつトリの嗅神経系の特性を明らかとした。1)鼻腔の構造:カラスやヒヨドリと同様に、キンカチョウの鼻腔も前鼻甲介・中鼻甲介が発達し後鼻甲介が未発達(あるいは欠失)という共通点があることを確認した。さらに中鼻甲介の発達程度も低いことが確認できた。2)嗅上皮の分布領域と嗅細胞の微細構造:免疫組織化学染色などの結果から、嗅上皮は鼻腔の後方の背側天井から外側にかけて分布していることが確認できた。電子顕微鏡による解析から、線毛と微絨毛を混合して持つ嗅細胞が存在することが明らかとなった。3)嗅球の構造:カラスやヒヨドリと同様に、キンカチョウの嗅球も左右の区別がない「単一嗅球」であることを確認した。また、嗅神経に結合するレクチンの種類も、カラスやヒヨドリとほぼ同じであることが明らかとなった。 以上の結果より、キンカチョウの嗅覚系は(1)「単一嗅球」の動物モデルとしての特性を備えていること、(2)嗅細胞や嗅球は、嗅覚機能が明らかな脊椎動物に共通した細胞構造を持つことが明らかとなった。よって、このトリの嗅覚系は嗅覚機能研究モデルになることを示すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度に予定していた、(1)ゴルジ染色による傍糸球体細胞の形態と生化学的特性の解析と、(2)嗅球の僧房細胞層にトレーサーを注入し、嗅球から高次中枢への嗅覚神経系の神経回路を明らかとする、の2課題に着手できなかった。 この理由として、(1)は組織化学染色と電子顕微鏡解析を最優先したため、これらとは全く別の手法で行うゴルジ染色用の動物を確保できなかったことによる。平成24年度は優先的にゴルジ染色による解析を進める予定である。 一方(2)は、キンカチョウ嗅球の大きさが小さいため、マウスやウズラの嗅球を用いて事前準備していた実験機器の設定内容を変更する必要が生じたためである。現在、改良を行っており24年度は遂行できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、23年度に明らかにしてきた鼻腔と嗅球の組織学的解析をさらに進めると同時に、23年度に着手出来なかったゴルジ染色と免疫染色による傍糸球体細胞の解析、トレーサーによる嗅球から上位への投射経路の解析に着手する。さらに当初から24年度に予定していたヒナを用いての単一嗅球の発生過程についての解析を行う。また、24年度より、行動学的な解析としてニオイ好選性解析に着手し、キンカチョウが嗜好性を示すニオイの検索をスタートさせる。このトリが好選するニオイを見つけることが出来れば、好選するニオイに応答する嗅細胞や、嗅球の傍糸球体細胞や僧帽細胞(出力ニューロン)の検索を、cFos 抗体などの神経活動マーカーを用いた免疫組織化学染色によって試みることができると期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
差引額が約18万円になった理由は、23年度に計画していたゴルジ染色を行うための染色キット(FD Rapid GolgiStain Kit)および神経トレーサー試薬の購入を行わなかったことが原因である。「今後の研究の推進方策」に記載したように、これらの試薬を用いた研究は24年度に速やかに行う予定である。従って、当初の予定通りに、23年度の差引額は染色キットと神経トレーサー試薬の購入に充てる。24年度は、当初の実験計画に則り、好選性試験観察ケージ(仕切り付き大型ケージ)とハイビジョンビデオカメラを購入して、ニオイ好選性解析に着手する。また、電子顕微鏡による嗅球微細構造解析を進めるために免疫組織化学染色並びに電子顕微鏡標本作製に関わる試薬を中心に研究費を使用する。
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