研究課題/領域番号 |
23580411
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
横須賀 誠 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (90280776)
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キーワード | キンカチョウ / 嗅上皮 / 嗅細胞 / 鼻腔 / 単一嗅球 |
研究概要 |
[目的] 野生のハシブトガラスやヒヨドリ(いずれもスズメ目)がもつ“単一嗅球”は、左右が癒合した嗅球でありながら左右の嗅神経束の投射を独立に受け取り、限定された嗅細胞を持つことが予想されることから、動物の嗅覚進化とその機能を新しい視点から考察するモデルになると期待される。本研究は、実験動物であるキンカチョウ(スズメ目)の嗅覚系を解剖学的に解析し、単一嗅球のモデル動物としての基盤作りを目的とする。 [研究実績] 平成24年度は、免疫組織化学染色、神経トレーサー、透過型および走査型電子顕微鏡によるキンカチョウの嗅上皮の分布領域および微細組織構造の解析を行い、このトリの嗅上皮の形態学的特性を明らかとした。また、食餌行動様式をビデオ記録して、このトリの餌選択の基本行動様式の解析を試みた。研究結果:(a)嗅神経への神経とレーサー投与によって鼻腔内の嗅上皮の分布領域を検索した結果、キンカチョウの鼻腔の中鼻甲介の背側から鼻腔の最後部にかけて、嗅上皮が分納している事が確認された。(b)透過型電子顕微鏡の観察により、キンカチョウの嗅上皮は、嗅細胞、支持細胞、基底細胞というニワトリや一般の哺乳類の嗅上皮と同様の細胞群で構成されていることが明らかとなった。さらに、(c)嗅細胞の鼻腔表面は線毛と微絨毛を混合することが最終的に明らかとなった。(d)走査型顕微鏡による観察で、嗅細胞の表面の線毛は極めて長いことが判明した。(e)摂食行動のビデオ観察によって選好性を示す餌の存在が示唆された。 以上の結果より、キンカチョウの嗅覚系について、(1)鼻腔内の嗅上皮は極めて狭い領域に形成されている、(2)嗅上皮は嗅覚機能が明らかな他の脊椎動物と共通した細胞構造を持つこと、(3)嗅細胞の線毛は哺乳類のそれよりも極めて長いこと、などを明らかにした。このトリが嗅覚の研究モデルになることを強く示すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度までに予定していた、(1)ゴルジ染色と免疫組織化学染色による傍糸球体細胞(JG細胞)の形態と生化学的特性の解析、(2)嗅球への神経トレーサー注入による嗅球から高次中枢への嗅覚神経系の神経回路の解析、の2課題が達成出来ていない。理由としては、キンカチョウのみならずトリ嗅球にはJG細胞が少なく、ある確立でしか染色できないゴルジ染色ではJG細胞を染め出すことが極めて困難であることが挙げられる。免疫組織化学染色による解析についても、ほぼ同じ理由による障害が挙げられる。24年度においで嗅神経束へのトレーサー投与による嗅上皮の分布領域の確認、電子顕微鏡による嗅上皮の微細構造の解析を進める事が出来た。そのため、25年度はこの技術を活用して嗅球から高次中枢への投射経路の検索は遂行が出来る予定である。 一方、25年度に遂行予定であった行動解析については、24年度に購入したビデオカメラを用いた予備観察実験を前倒しでスタートする事が出来たため、最終年度は行動解析(餌の好選性試験)をすでに開始出来る状態になっている。 以上の状況から、本研究課題は順調に進んでいると評価出来る。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、行動解析(餌の好選性試験)によって、キンカチョウが摂食行動に嗅覚を使っているか否かを評価して、単一嗅球をもつこのトリの実際の嗅覚機能の評価を試みる。複数種の餌を同時に呈示出来る行動解析用の飼育かごを作成し(市販の鳥かご Hoei 35角型を改造する)、通常飼育で与えている市販の混合餌(アワ、ヒエ、キビ、ボレー粉などの混合餌)を原材料別に分別し、内側にニオイ成分を吸着させるためのガーゼを装着した餌箱に原材料別に入れて、それらを同時に実験動物に呈示する。観察手順としては、はじめに試験個体が好選性を示す原材料の選別を試みる。次に、好選性を示す原材料に塩化リチウム(LiCl)など一般的に動物が内臓不快感を示す物質を添加(あるいは同原材料の接種後の動物に投与する)して、味覚嫌悪学習が成立するかどうかの評価を行う。さらに、味覚嫌悪学習が成立した原材料について、原材料を除いたニオイの吸着した空の餌箱のみを呈示して、その餌箱を避ける行動を示すか否かを観察する。これらの学習試験の成立が証明出来れば、キンカチョウが餌の選別において嗅覚や味覚を必要としていることを示す事が出来る。 また、24年度に透過型電子顕微鏡の観察で明らかにした「同じ嗅細胞における微絨毛と線毛の共存」「極めて長い線毛」という形態学的特徴をさらに明確にするために、走査型電子顕微鏡による嗅上皮表面の3次元構造の解析を進める。 さらに、行動解析によって好選性を示した餌を応答させた動物個体の脳標本を、免疫組織化学染色(行動解析した個体の嗅上皮や嗅球をc-Fos免疫組織化学染色で組織解析する)で解析することで、好選性を示した餌に応答した嗅細胞と嗅球の糸球体の検索を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度における研究費の使用計画は以下である。 (1)実験動物の購入費:主たる使用動物であるキンカチョウの定期的な購入。(2)餌の好選性試験観察用のケージの作成費:市販の鳥かご(Hoei35角)を元にして、内部に装着する止まり木の作成、複数の餌を同時呈示するための餌台と餌箱の作成を行い、これらを改造鳥かごに設置する。加えて、平成24年度に備品購入したビデオカメラで撮影するために、市販の台所ワゴンを改造して観察飼育ケージをセットする撮影台を作成する(3)鼻腔内の嗅上皮の3次元構造および微細構造を解析するための、透過型および走査型電子顕微鏡標本の作成費(4)嗅球の傍糸球体細胞の形態学的解析用のゴルジ染色キットの購入費(5)嗅球から上位脳中枢への嗅覚神経回路解析のための神経トレーサー関係試薬の購入費(6)査読付き論文の作成および投稿のための費用。(7)必要に応じて、使用試薬や免疫組織化学染色の1次抗体の作用確認のため、その試験動物としてマウスの購入を行う。
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