研究課題/領域番号 |
23580417
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
守村 敏史 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所疾病研究第二部, 流動研究員 (20333338)
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研究分担者 |
井上 健 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所疾病研究第二部, 室長 (30392418)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | オートファジー / 小胞体ストレス / 食品成分 / 神経変性疾患 / リン酸化 |
研究概要 |
オートファジーは細胞質内に蓄積した不良蛋白質や不良オルガネラを、ライソゾームを介して分解する機構であり、この異物除去機構の活性低下は、遺伝性、孤発性を問わず多くの神経変性疾患に重要な位置を占めている。言い換えれば、オートプァジーの人為的な活性化は、これら難治性疾患の治療に極めて有効である事が期待される。本研究は、日頃接種している安全性の高い食品中の成分からオートファジー誘導活性を持つ因子をスクリーニングし、臨床応用を目指している。 私はこれまでにオートファジーを感知する蛍光プローブであるGFP融合LC3を恒常的に発現するHeLa細胞株を樹立し、140種の食品成分より4種類の成分にオートファジー誘導活性を有する可能性を持つ事をWestern blotting並びに蛍光顕微鏡下で明らかにした。本年度は同定した4種類の成分の薬理学的位置づけを確立する目的で、オートファジーに関わる蛋白質のリン酸化に着目した。その結果、4種類の成分のうち2種類は、直接或は間接的にtarget of rapamycin (mTOR)の活性を抑制する事によりオートファジーを誘導する事が明らかとなった一方、残る二つの成分はmTORの活性に影響を及ぼす事なくオートファジーを誘導する事が示唆された。mTORの活性低下はオートファジーを誘導する一方著しい免疫抑制を誘導する事が知られており、私は後者の2成分について更に検討した。これら2成分は構造的に類似した一群のグループに分類される事から、同じ薬理作用によりオートファジーを誘導するものと予想されたが、オートファジーの上流の蛋白質リン酸化酵素であるフォスファチジルイノシトールキナーゼ(PI3K)について調べた所、両者は全く逆の活性を示し、すなわち片方の成分はPI3Kの活性を上昇させたが、残る一方はPI3Kの活性を抑制する事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
私は今年度、課題研究の内容と非常に関連性の高い二つの研究を併行して行った。(1)細胞質内に蓄積した異物処理はオートファジーが担当する一方、小胞体内で膜蛋白質や分泌蛋白質のfoldingが正常に行われずに異物として蓄積した場合、ユビキチン依存性ER associated degradation (ERAD)を介してこれら異常蛋白質は除去される。小胞体内での異物がERADの能力を超えると、細胞に強い小胞体ストレスがかかり、これら細胞はapoptosisにより死滅する。これら二つの異物処理機構は密接な関与が指摘され、今年度私は小胞体ストレスを緩和する薬剤の同定に、HeLa細胞を用いた系で成功した。更にこの薬剤が生体内で有効か否かを検討する目的で、小児の代表的な先天性白質形成不全で、小胞体ストレスが原因で発症するPelizaeus Merzbacher病 (PMD)のモデルマウスに接種し、その有効性を確認した。(2)カレーの有効成分の一つクルクミン(ウコン)は、多くの疾患治療に応用されている。私は共同研究で、クルクミンがPMDに有効な治療薬である可能性をモデルマウスへの投与実験で見いだし、その薬理作用特に小胞体ストレスやオートプァジーとの関連を培養細胞の系で解析した。クルクミンは小胞体ストレスを緩和する薬剤としていくつかの報告があるが、少なくともPMDにおける小胞体ストレスには影響がなかった事から、全く別の機構によりPMDの進行にクルクミンは抑制的に働く事が示唆された。 これらの成果は、難治性疾患治療には極めて重要な知見であり、実験及び論文執筆にかなりの時間が割かれ、課題研究の進行に多少の遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに同定した二種類の候補食品成分に加え、さらに広範にスクリーニングを加え、オートファジー誘導成分の検索と薬理学的作用点を、生化学的・分子生物的に培養細胞を用いて検証する。また今春私に研究室の異動があり、現在代表的な神経変性疾患である筋萎縮性側脊硬化症(ALS)の研究も開始した。ALSは上部及び下部運動ニューロンにユビキチン陽性の異常な蛋白質の蓄積を認める典型的な神経変性疾患である。ALSの進行にはオートファジーやユビキチン依存的タンパク分解機構(プロテアゾーム)の機能不全が指摘されている。言い換えれば、これらシステムの人為的な活性化は、ALS進行に極めて有効である可能性が示唆されている。すなわち、本研究で同定された食品成分の生体での効果の検証には非常に有効なモデル系である。そこで、これまでに解析に用いてきたPMDの原因蛋白質であるproteolipid protein 1 (PLP1)に加えて、ALSの原因遺伝子として同定されているSuperoxide dismutase 1 (SOD1)やTAR domain binding protein of 43 KDa (TDP-43)に対する各成分の作用を培養系を用いて検証する。更に当研究室では、ALSのモデル動物としてSOD1 (G93A)トランスジェニックマウスを有しており、生体内での効果合わせて経口投与並びに髄注投与により検証していくつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、培養細胞を用いた研究を中心に行う予定である。これまで同定した種類の食品成分に構造上類似した食品添加物を中心に更にスクリーニングの範囲を広げるとともに、作用点がよく解明されている各種阻害剤にもスクリーニングの幅を広げ、更なる候補成分の検索を行い、これまで同定された成分と会わせて薬理学的作用点を明らかにする。また、小胞体ストレスとオートファジーは細胞内メタボリズムを考える上で極めて密接な関連がある事から、同定された成分の小胞体ストレスに対する効果も検証する。 候補成分に関しては、更に実際の不良蛋白質の蓄積、凝集等に対する作用を検証する目的で、以下の代表的な二つの神経変性疾患の原因となる細胞質、核並びに膜蛋白質をモデルに、候補成分添加に伴う発現量、翻訳効率、局在、不溶性・可溶性画分比率、細胞内局在等の検討を行う:細胞質内蛋白質であるSOD1は家族性ASLで最も頻度の高い原因蛋白質であり、ALS患者及びモデル動物の運動ニューロンでの蓄積が認められる。核蛋白質であるTDP-43は、SOD1非依存的孤発性ALSの細胞質内封入体のコア蛋白質として同定されたが、本蛋白質の変異もALSの原因となる事が報告されている。膜蛋白質であるPLP1はPMDの原因蛋白質であり、その変異により強い小胞体ストレスが誘導される。 以上研究遂行に当たり、当初の申請通り研究費の大半は、各種食品成分・阻害剤、生化学的解析試薬、オートファジー・小胞体ストレス及びALSに関わる各種抗体並びにreal time PCR関連試薬の購入にあてる一方、現在の所設備品の購入は考えていない。
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