研究課題
本研究は2008 年に我が国には存在しないとされてきた熱帯地方を流行地とする人獣共通皮膚糸状菌症原因菌Microsporum gallinae によるヒト感染例が沖縄県で発生したことから,この菌種の移入経路の解明,全国的な分布状況を明らかにする目的で行われた研究である.今年度は予備調査で判明していた結果の千葉県で飼育されていた軍鶏より分離された本菌種およびその調査結果についての論文がMedical Mycologyに掲載された( (Murata M, Sano A他14名. Isolation of Microsporum gallinae from a fighting cock (Gallus gallus domesticus) in Japan. Med Mycol. 2013 Feb;51(2):144-9).しかしながら,2011年の東日本大震災の影響で,当初予定していた東北地方の調査が不可能となったことに加えて,平成23年10月の家畜伝染病予防法の改訂により,鶏飼育施設への立ち入りが極めて難しい状況となったため,今年度は沖縄県内を中心に200羽あまりの調査を行った.また,隣接する外国として台湾の状況を調査したが,衛生管理が徹底し,2年前には露店で購入可能であった生きている鶏は全て食肉加工された状態での販売に制限され,30検体あまりを調べたが,若干の環境真菌が生育することはあっても関連菌種を含めて,病原真菌の生育は確認されなかった.よって,海外でもこのような調査は今後極めて難しくなると思われた.平成23,24年度を通じ,現在までに上記検体からM. gallinae は分離されなかったが,関連菌種のChrysosporium spp.は約150株が分離され,遺伝子配列から我が国では確認されたことの無い遺伝子型もあり,引き続き,遺伝子解析を進めている.
3: やや遅れている
今年度は予備調査結果の論文がMedical Mycologyに掲載され,人獣共通感染症としての社会的啓発と科学的インパクトについてはこの研究の目的を果たせたと思う.しかし昨年度の報告書に書いたように,2011年の東日本大震災の影響で,当初予定していた東北地方の調査が不可能となったこと,平成23年10月の家畜伝染病予防法の改訂により,鶏飼育施設への立ち入りが極めて難しい状況となったこと,飼育者へ郵送による検体送付の呼びかけを行う予定だったが,2011年夏の郵送検体破損事故以来,個人での検体輸送は極めて困難な状況に至っただけでなく,獣医師以外の方により採集された検体を郵送に委ねることは,公衆衛生ならびに家畜伝染病の予防の観点から好ましくないと判断し,この方法は中止せざるを得なかった.このように不可抗力の事態が多数発生し,今年度も当初予定していた調査羽数および調査地域を大幅に変更せざるを得なかった.今年度は沖縄県内で205羽,千葉県5羽の調査を行った.また,隣接する外国として台湾の状況を調査したが,衛生管理が徹底し,2年前には露店で購入可能であった,生きている鶏は全て食肉加工された状態での販売に制限されたため,検体の採集ができなかった.食鳥工場でも,その衛生管理の徹底により,処理直前の30検体あまりを調べたが,若干の環境真菌(ペニシリウム,フザリウム等)が生育することはあっても,関連菌種を含めて,皮膚糸状菌の生育は確認されなかった.今後は社会的背景や安全上の問題点から,このような調査は我が国だけでなく世界的に極めて難しくなると思われた.
平成23年度,24年度を通じ,現在までに上記検体からM. gallinae は分離されなかったが,関連菌種のChrysosporium spp.は約150株が分離された.真菌のバーコード遺伝子で,分子疫学的解析にも利用されているリボゾームRNA遺伝子のInternal Transcribed Spacer (ITS)領域の遺伝子配列を用いて,これらの株について,本土と沖縄周辺地域との遺伝子型の比較を行っている.この解析結果については年度内に論文として投稿する予定である.予算が余っている状況については3月末に行った調査旅費の精算がまだ済んでいないためである.
次年度の研究費の使用計画(概算)遺伝子解析およびその関連試薬:50万円,英文校閲料:5万円,関連学会などでの情報収集旅費:15万円
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Medical Mycology
巻: 51 ページ: 144-149
10.3109/13693786.2012.701766