研究課題
豚レンサ球菌は豚やヒトに髄膜炎や心内膜炎を起こす病原細菌で、近年世界中で豚と人の感染例が多数報告されている。本菌の莢膜は食菌作用に抵抗する重要な病原因子と考えられるが、莢膜を失うと組織表面への接着やバイオフィルム形成能等が亢進するなど異なる病原性を発現することも報告されている。我々は、心内膜炎分離株には莢膜保有株と欠失株の両者が混在することを見いだした。そこで、心内膜炎から分離した莢膜欠失株の莢膜遺伝子等を解析し、本菌が異なる病原性を発現するメカニズムを明らかにすることを目的とした。23年度では、血清型2型および1/2型に必須なcps2J遺伝子を保有する心内膜炎由来256株と対照として髄膜炎由来32株を用い、それらの莢膜発現を血清凝集反応と電子顕微鏡観察により調べると、髄膜炎株は全て莢膜を発現していたのに対し、心内膜炎株の86株(34%)は、莢膜を発現していなかった。次に、莢膜を発現しない43株を無作為に選び、莢膜産生遺伝子群領域全域をカバーする全21組のprimerセットを用いてPCRで各遺伝子の有無を調べた。18株では、PCRの産物が無い領域や予想とは異なる長さの断片を生じ、それらの塩基配列を決定したところ、予想通り欠失や挿入が起こっていた。この変異は、特にcps2Eおよびcps2F遺伝子領域に多く見られた。残りの25株について、cps2Eおよびcps2F遺伝子領域のみ塩基配列を決定したところ、20株が1~数塩基以内の挿入・欠失変異を有していた。一方、残りの5株では、調べた範囲に変異は無かった。莢膜保有髄膜炎由来代表株と莢膜非産生心内膜炎由来株の、心内膜炎形成過程に重要な性質である、豚およびヒト血小板への接着性は莢膜非産生株が有意に高かった。これは、別な莢膜保有髄膜炎由来株とその莢膜遺伝子破壊変異株との比較でも同様であった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していた心内膜炎由来株および髄膜炎由来株での莢膜産生の違いを血清学的、形態学的および遺伝学的にもほぼ明らかにし、最終年度に予定していた細胞(血小板)への接着の違いを、莢膜産生能の異なる野外分離株および実験室で作製した変異株について明らかにし、心内膜炎発症にとっては、病原因子である莢膜を失うことが有利になることを示した。
遺伝子変異に法則性は見いだせなかったが、特定の領域に変異が多く見られたことから、莢膜非産生株から莢膜産生株に戻ることがあるかどうか検査する。また、1~数塩基以内の挿入・欠失変異を有した株で、莢膜発現に影響することが明らかでない変異もあったことから、これらの株にcps2Eまたはcps2F遺伝子を相補させて発現の回復があるかを見る。さらに、莢膜非産生株で血小板への接着に予想以上の向上が見られたことから、莢膜非産生株を利用して、血小板への接着に関与する菌表層の分子を明らかにすることを試みる。
当初予定していた遺伝子ノックアウトと相補試験、莢膜欠失あるいは復帰変異の頻度測定、培養細胞への作用の検査については、若干解析方向が異なるものの、作業としてはほぼ同じ試薬と器材を必要とするため、予定通り研究費を使用する。
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