研究課題
豚レンサ球菌は豚やヒトに髄膜炎や心内膜炎を起こす病原細菌で、近年世界中で豚と人の感染例が多数報告されている。本菌の莢膜は食菌作用に抵抗する重要な病原因子であるが、莢膜を失うと組織表面への接着やバイオフィルム形成能等が亢進するなど異なる病原性を発現することも報告されている。我々は、心内膜炎分離株には莢膜保有株と欠失株の両者が混在することを見いだした。そこで、心内膜炎から分離した莢膜欠失株の莢膜遺伝子等を解析し、莢膜欠失株の生物学的意義について解析した。すなわち、血清型2型および1/2型に必須なcps2J遺伝子を保有する心内膜炎由来の無莢膜86株から無作為に選んだ43株について、莢膜産生遺伝子群領域をPCRにより調べた。その結果、18株において明らかな挿入・欠失等の偶発的変異を検出したが、残りの25株では大きな変化は無かった。上記18株の変異部位の多くはcps2E-2F領域に限局していたことから、残り25株のこの領域の配列を決定したところ、殆どはこの領域に偶発的な点変異等を認め、他の領域も含めた全ての領域の変異を同定したところ、cps2I-2Jおよびcps2N-2O領域には変異がなかった。この部位の欠失変異株を人工的に作製する実験を行ったところ、この部位の変異は菌にとって致死的となることが分かった。さらに、cps2E-2F領域の変異が予め入っていると、ps2I-2Jおよびcps2N-2O領域の変異が致死的にならないことを確認した。一方、莢膜欠失変異株は、血小板接着やバイオフィルム形成能が亢進するが、莢膜産生株を含めた菌集団全体のバイオフィルム形成も亢進した。すなわち、莢膜遺伝子群の変異は、菌にとって致死的となる危険性を含むが、致死的変異を逃れる機構も兼ね備えており、一方でバイオフィルム形成亢進など有益となる性質も生じることにより菌集団全体の生き残りを図っていることが分かった。
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