研究課題/領域番号 |
23580423
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
山口 剛士 鳥取大学, 農学部, 教授 (70210367)
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キーワード | Dermanyssus / ワクモ / 病原性 / 免疫応答 / ニワトリ |
研究概要 |
ワクモ(Dermanyssus gallinae)寄生が鶏に与える影響を明らかにするため、ワクモが吸血時に鶏に分泌する物質、ワクモ寄生に対する宿主免疫応答、およびワクモによる病原体保有について検討を行っている。今年度は、鶏におけるワクモ吸血後の抗体応答と抗原分子の解析およびワクモの人工飼育システム構築と当該システムを用いたワクモによるインフルエンザウイルス伝播の可能性を検討した。 ワクモ寄生鶏で抗体応答のあったワクモの53Kdaおよび56Kda分子を特定するため、ワクモ抗原をイオン交換クロマトグラフィーおよびワクモ寄生鶏抗体を用いたアフィニティーカラムにより精製し、質量分析に供した。その結果、56Kda分子は既存分子との相同性確認に至らなかったが、53Kda分子はダニ類のprotein disulfide isomerase (PDI)と比較的高い相同性を示した。この分子には、ワクモ吸血後の鶏に抗体応答があるため吸血時に鶏体内に分泌されている可能性が推察された。また、ワクモ寄生鶏の抗体応答についてこれまでの成果を基礎に、ELISAによるワクモ寄生鶏摘発システムの構築を試みた。上述の分子を含むワクモ粗精製抗原を用いたELISAを実施したところ、その反応性により寄生鶏および非寄生鶏の鑑別が可能であることが示された。この反応は鶏血清だけでなく被寄生鶏の卵から得た卵黄抗体でも同様であった。次に、ワクモによる高病原性鳥インフルエンザウイルス伝播の可能性を検証するため、H3, H5およびH7亜型の弱毒株それぞれを含む鶏血液をワクモに吸血させ、感染価を経時的に測定した。その結果インフルエンザウイルスはワクモ体内で、気温15℃で2週間、4℃で2-5週間感染性を維持し、ワクモによるウイルス伝播の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の実験計画では、ワクモ寄生鶏におけるワクモ抗原に対する抗体応答の解析と平行し、cDNAライブラリーを作成、ワクモ寄生鶏血清を用いた免疫学的スクリーニングにより抗原分子を明らかにする予定であった。しかし、十分な規模のcDNAライブラリー構築には未だ至らず、免疫学的スクリーニングによる抗原分子の同定には至っていない。しかし、明らかな抗体応答が認められたワクモ抗原2分子については、ワクモ寄生鶏血清から調製した抗体を用いたアフィニティーカラム等により精製を試み、予定通り質量分析による分子の解析に至った。その他の、吸血に対するサイトカイン応答およびワクモからの病原体遺伝子の検出については概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度についても、十分な規模のcDNAライブラリーの構築を目指す。吸血時にワクモから鶏に分泌されている分子の解明については、質量分析により得た53Kda分子の解析成績をもとに、その遺伝子をクローンニングし、機能解析を目指す。また、これまでに実施した鶏での抗体応答の解析では、検出される抗体応答が53および56Kdaのワクモ抗原2分子に限られている。しかし、他のダニ類の場合、より多様な分子が吸血時に宿主へと分泌されており、ワクモにおいてもより多くの分子が鶏へと分泌されている可能性が高い。そこで、ワクモをマウスあるいはラットから吸血させ、これら哺乳動物での抗体応答を解析する予定である。ワクモは通常鳥類を宿主とするが、哺乳動物からも吸血を行うことが知られており、哺乳動物での吸血は、鳥類では認められない抗体応答の発見に至る可能性がある。これにより新たな吸血時分泌物質の解明を推進する。さらに、ワクモ吸血に対する宿主応答についてこれまでに実施してきた末梢血単核球でのサイトカイン発現解析に加え、吸血部位である皮膚局所の反応についても検討を試みる。これらを総合し、ワクモ寄生が宿主に与える影響や病原性解明を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当無し
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