研究課題
本研究は,日本における病原性Bartonella の生態を,野生動物とその外部寄生虫(マダニ・シラミバエ等)を研究対象として,細菌学的・分子生物学的手法を用いて解明することを目的としている。今年度は,わが国の鹿とその外部寄生虫におけるBartonella属菌の保有状況ならびにベクターについて検討した。【材料と方法】平成20年11月~ 平成22年3月の間に,北海道・奈良県・和歌山県で捕獲された野生鹿 (エゾシカ19頭とホンシュウシカ26頭),宮城県・愛知県の飼養鹿 (ホンシュウシカ27頭)から血液を,奈良県の野生鹿からマダニ33匹とシラミバエ10匹を採取した。各試料からBartonella属菌を分離し,gltA領域の塩基配列から系統解析を行った。【成績と考察】野生鹿の57.8% (26/45)からBartonella属菌が分離されたが,飼養鹿からは分離されなかった。野生のエゾシカとホンシュウシカの保菌率はそれぞれ42.1% (8/19),69.2% (18/26)であった。シラミバエの90% (9/10)からBartonella属菌が分離されたのに対し,マダニでは3.0% (1/33)から分離されたのみであった。系統解析の結果,分離株はB. capreoliと同一または独立したクレードを形成した。また,マダニ分離株の遺伝子型は寄生していた鹿の株と同一の遺伝子型であったが,シラミバエ分離株では異なっていた。以上から,わが国の野生鹿は少なくとも2種のBartonella属菌を高率に保菌していることが明らかとなった。野生鹿の多くに外部寄生虫が認められたが,飼養鹿には認められなかったことから,鹿のBartonella属菌の水平伝播には外部寄生虫,特にシラミバエが関与している可能性が示唆された。今後,鹿が保有するBartonella属菌の公衆衛生上の意義を検討する必要があると思われた。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要にも示したように,今年度はわが国の鹿とその外部寄生虫のBartonella属菌の保有状況ならびにベクターについて検討した。試料収集,培養,遺伝子解析などはほぼ終了しており,わが国の野生鹿は高率にBartonellaを保有していること,鹿が保有するBartonella属菌は少なくとも3菌種(うち2つは新種)であることが判明した。また,野生鹿に寄生しているシラミバエがBartonella属菌のベクターである可能性を示すことができた。以上の通り,研究自体はおおむね順調に進展している。
今年度はわが国の野生草食動物におけるBartonella属菌の生態を細菌学的・分子生物学的手法により検討したが,次年度以降は野生食肉動物(犬亜目,猫亜目)についても同様の手法を用いて解析する。
今年度は震災の影響で研究費の使用開始が遅れたため,当初の計画通り使用できず,次年度へ繰り越しした。次年度は,当初の研究計画に沿って,研究費を使用する予定であるが,研究成果を海外の学会(アメリカ,タイ)で発表する予定があるため,その旅費を計上したい。
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