研究課題/領域番号 |
23580437
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
都築 圭子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任助教 (30364251)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 再生医療 / 角膜 / 獣医学 |
研究概要 |
平成23年度は、犬角膜上皮幹細胞の性状解析(主に増殖能について)および犬羊膜上角膜上皮シートの作製を試みた。まず、RT-PCRおよび免疫染色により、犬角膜上皮におけるABCG2およびp63発現について調べたところ、ABCG2は角膜上皮幹細胞が存在するとされる輪部基底層に限局して見られた。一方、p63に関しては、角膜全層に発現していたが、輪部で発現が強い傾向がみられた。in vitroにおいて、輪部上皮の増殖能とこれらのマーカー発現を比較したところ、p63は犬角膜上皮の増殖能と相関していると考えられた。しかし、ABCG2においては、in vitroの発現が確認できず、培養環境下では発現を維持できないと考えられ、幹細胞の維持にはなんらかのフィーダー細胞等を用いる必要があると考えられた。 犬羊膜上角膜上皮シートの作製においては、3T3細胞をフィーダーとして、羊膜上に輪部上皮細胞を播種し、air lift法を用いることで、正常犬角膜上皮に類似した羊膜を基質とする重層化上皮を得ることができた。免疫染色の結果、重層化上皮は角膜上皮マーカーであるK3を発現することから、犬角膜上皮細胞であることを確認した。さらに、シートに含まれる細胞は、p63を発現しており、基底層ではABCG2の発現も認められた。これらのことから、作製した羊膜上犬角膜上皮シートは増殖能をもつ角膜上皮で構成され、ABCG2陽性細胞を含むことから、犬角膜上皮幹細胞を含み、角膜再生に用いる移植材料として有用であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、犬角膜上皮幹細胞マーカーの同定を行うことを目的に、犬正常角膜に手ABCG2おいおびp63の発現を調べたところ、ABCG2は輪部上皮基底層に限局し、p63は角膜全層において発現が見られた。このことから、ABCG2は角膜上皮幹細胞マーカーとして有用と考えられたが、in vitroにおいては発現を維持することが難しく、幹細胞特性とABCG2発現の直接的な関連を示すことはできなかった。一方、p63発現は、角膜上皮の増殖能と正の相関をもつことが示唆され、ある程度未分化で増殖脳の高い細胞、すなわち角膜上皮前駆細胞のマーカーであると考えられた。羊膜上犬角膜上皮シートの作製については当初の計画通り進展しており、さらに上記2つのマーカーの発現を見たところ、角膜上皮シートの基底層でABCG2が発現し、p63の発現もみられたことから、羊膜上犬角膜上皮シートは角膜上皮幹細胞を含む増殖能の高い細胞から構成されており、再生医療の材料として有望であると考えられた。当初の計画ではケラチンサブタイプの解析による犬角膜上皮分化マーカーを同定する予定であったが、人や実験動物で用いられているK3は未熟な角膜上皮細胞では発現が見られないため、これを分化マーカーとして用いている。同様にシートでの発現を調べたところ、特に基底部以外の細胞はK3を発現しており、正常角膜と同様に、シートは角膜上皮幹細胞、前駆細胞、分化した角膜上皮細胞で構成されていると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降は予定通り、角膜損傷モデルを作製し、犬羊膜上角膜上皮の移植を行う。また、羊膜基質のみでなく、コラーゲンゲルなどの人工材料を用いたシート作製や、温度応答性シャーレなども用いた基質を用いない角膜上皮シートの作製も試みる予定である。これらの新しい方法を用いて作製した犬角膜上皮シートにおいて、羊膜上シートと同様に組織学的評価を行い、より優れたシートの作製を目指す。シートの改善がみられた場合は角膜損傷モデルへの移植を追加していく予定である。また、本年度は至らなかったが、ABCG2陽性細胞を、FACSで分離し、性状解析を行うことで、ABCG2と犬角膜上皮の幹細胞特性について、より直接的な関連性を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
前年度と同様に、角膜上皮幹細胞マーカー、および分化マーカーに用いる抗体や培養、組織評価に用いる消耗品の購入に使用する予定である。次年度はさらに、人工材料を用いたシートの作製を試みると同時に、実際に犬角膜損傷モデルを作成し、移植を行い、評価する計画であるので、材料として用いる実験ビーグルの購入や手術器具などの消耗品にかかる費用が増える予定である。
|