昨年度までに犬羊膜に加え、アテロコラーゲンゲルおよび温度応答性培養皿を用いた犬角膜上皮シートの作製を試みた。本年度は各方法で作製したシートの性状比較を行い、アテロコラーゲンゲル上で作製した場合、最も高い効果が期待できる犬角膜上皮シートを作製できることを明らかにした。そこで本年度は犬角膜上皮損傷モデルを用い、アテロコラーゲンゲル上で作製した犬角膜上皮シート作製の安全性および有効性の検討を行った。結果、作製したシートは角膜損傷部に生着し、対照群と比較し角膜混濁の軽減がみられた。また、組織学的評価の結果、対照群は正常な上皮の再生が認められなかったのに対し、移植群ではケラチン3の発現、角膜上皮幹前駆細胞マーカーp63の発現の他、上皮の配列など、正常角膜と同様の特徴を示すまで修復が行われた。移植片による上皮の重層化亢進がみられたため、より長期的な観察が必要であると考えられたが、移植群では実質における組織修復も示唆され、角膜上皮シート移植により上皮のみならず角膜実質の修復にも貢献できる可能性が示された。 さらに、より臨床応用への安全性を高めるため、フィーダー細胞として従来用いているマウス由来3T3線維芽細胞の代替として、犬骨髄間葉系幹細胞あるいは脂肪由来間葉系幹細胞を用いた角膜上皮シート作製を試みた。結果、犬角膜上皮シートはフィーダー細胞を用いずとも、移植可能なシートの作製が可能であり、さらに安全なシートの作製が可能であると考えられた。 また、本実験を通し、犬輪部由来角膜上皮シートを繰り返し継代を行っており、現在80継代に達している。角膜上皮細胞の細胞株は他の動物種では報告されていないが、犬の口腔粘膜上皮で他の動物種と異なる増殖能力の維持が報告されており、角膜上皮細胞においても他の動物種にはない自己増殖能維持を示す結果ととらえており、今後より詳細な検討を加える予定である。
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