キスペプチンは、GnRHを分泌する神経細胞の活動を刺激し下垂体からの性腺刺激ホルモン(LH)の分泌を活発化する。非繁殖季節のヒツジに点滴で48時間持続投与すると大部分の個体が排卵し性周期が再帰すると、海外で報告された。しかし畜産現場で長時間の点滴投与法を繁殖に応用する事は現実的ではない。そこで本研究で、ウシにおいて長時間に作用が持続するペプチドの開発を試みた。ウシのキスペプチンの構造内で、生理作用発現に重要な部位を検討し、その部分を基に、血中半減期を延長し、組織透過性を高める効果を付加した薬剤の候補を作成した。キスペプチンはウシ下垂体前葉細胞にも作用し、LH分泌を下垂体レベルでも直接的に刺激するため、ウシ下垂体前葉細胞の培養系を構築し、もっとも良い候補物を選抜した。次に頸静脈カテーテルを装着した育成牛において、連続採血をしながら投与し血中LH濃度の変化を検討した。さらに頸静脈カテーテルを装着した分娩後乳牛においても、連続採血をしながら投与し血中LH濃度の変化を検討した。ウシ培養下垂体前葉細胞に対して、優れた(P <0.05)LH分泌促進作用を有する薬剤の候補が得られた。この薬剤を育成牛に投与すると、LH分泌を活発化させた(P <0.05)。しかしこの薬剤は分娩後乳牛においては、LH分泌を活発化させなかった。したがって開発された薬剤は、培養下垂体前葉細胞と、育成牛に対しては、LH分泌を活発化させるが、分娩後乳牛では効果が認められなかった。分娩後乳牛では、下垂体機能が低下していることが知られているため、下垂体機能の回復が本薬剤の効果発現に重要である可能性が考えられた。
|