研究課題/領域番号 |
23580441
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
高木 光博 鹿児島大学, 共同獣医学部, 准教授 (40271746)
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研究分担者 |
宇野 誠一 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (50381140)
音井 威重 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (30311814)
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キーワード | ゼアラレノン / 家畜 / 尿 |
研究概要 |
ゼアラレノン(ZEN)はFusarium属真菌により産生されるエストロジェン類似作用を持つマイコトキシン(MT)の1種で、これまでに尿中ZEN濃度をモニターすることで、簡易な日常モニタリング法として有用であることを初めて実証している。本年度は、牛群データベース中、極めて高い尿中ZEN濃度を示した1牛群の原因究明と防除法の確立を目的の1つとした。高尿中ZEN濃度が継続する1牛群において、給与飼料のZEN濃度測定をELISA法にて行ったところ、給与ワラで4.5 ppm以上のZEN濃度が検出されたために、HPLC法によるワラ中ZEN濃度の再測定と当該ワラの真菌培養を行い、汚染原因菌の同定を試みた。さらに、従来ワラ給与を継続した牛群とワラを変更した牛群を設定し、変更前後での尿中ZEN濃度測定を行うとともに、試験期間中の両牛群における臨床的変化を観察した。その結果、ワラ未変更牛群では高尿中ZEN濃度が持続したものの、ワラ変更牛群では有意な低下と便性状の改善が認められた。さらに、HPLC法では7 ppm以上のワラ中ZENが検出され、Fusarium属真菌も同定された。以上、尿中ZENモニタリング法によるZEN自然汚染牛群の初めての摘発、および汚染群摘発からその対策に至る一連のMT防除法モデルを初めて提示することができた。さらに、ZENおよび代謝物(α-ゼアラレノール; α-ZOL)の長期間曝露が精子に与える影響を検証するために、ブタ精液液状保存法を用いたZEN曝露試験を行った 。精子保存液にZENおよびα-ZOLを各濃度で添加して2~3週間冷蔵保存し、その後の活力、生存率および体外受精後の胚盤胞率を比較検討した。その結果、1ppm添加群においても無添加群と比較して各項目において有意差は認められなかった。以上より、ZEN曝露によるブタ精子への影響はそれほど大きくない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 申請者らのデータベース中、他群と比較して有意に高い尿中ZEN濃度(500倍以上)を示した1牛群をZEN浸潤モデル牛群として、その 原因を究明するとともに対策を講じて、飼養環境下のMT浸潤牛群における尿中ZENモニタリングシステム臨床適用モデルの構築をはか る。 達成度) 上述したように、ZEN汚染原因の究明、および本モデル牛群を用いたマイコトキシン吸着剤の添加効果に関する臨床試験を既に終えており、昨年6月にポルトガルで開催された世界牛病学会にて口頭およびポスター発表を行った。さらに、それらの成果の一部は既にJ Anim Sciに論文として掲載済みである。最終的な纏めとして、吸着剤投与関する客観的な評価を行うために、血清生化学および内分泌検査成績を加えた最終的なデータを論文として投稿予定にしている。 2) ZENが生殖機能に与える影響をさらに詳細に検証するために、卵子体外培養系モデルを用いたZEN添加試験を発展的に継続するとと もに、卵胞コラーゲン包埋培養法を確立して、ZEN長期間暴露による卵胞発育および卵子成熟能に対する影響を初めて明らかにする。 達成度) 上述したように、ブタ体外培養系を用いたZENおよびその代謝物であるα-ZOLへの曝露試験を実施しており、体外成熟培地、および媒精用培地へのZEN添加試験については既にJ Reprod Dev に掲載済みであり、精子保存用液へのZENおよびα-ZOLの長期間添加試験結果に関しても既にAnim Sci J へ論文として掲載済みである。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている尿サンプルの測定を継続して行い、飼養環境下の牛群におけるZEN浸潤動態に関するデータベースの収集を行うとと もに、これまでに報告のないMT吸着剤の添加効果について、尿中ZEN、およびその代謝物濃度を指標とした客観的な評価方法の確立をはかるとともに、上述モデル牛群より得られた血清サンプルを用いて血清生化学検査、およびホルモン(プロジェステロンおよび抗ミューラー管ホルモン)濃度測定を行い、ZEN浸潤が各種代謝パラメーターや繁殖性、特に卵胞発育、排卵および卵巣内小卵胞数に与える影響を調査して、内分泌撹乱物質としてのZENの生体における影響を初めて明らかにする事を目的とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費について)尿、血清および飼料サンプルなどの保存が必要不可欠であり、そのためにプラスチック器具として計上している。さ らに、尿および飼料中MT濃度測定のために関連キット代、LC/MS/MS法による尿中MT濃度測定法確立のための添加回収実験と固相抽出の ための消耗品費、血清生化学検査のための試薬、器具等の消耗品費、体外培養系実験のための試薬費、その他本申請課題を遂行する上 で必要なガラス器具やプラスチック器具等を消耗品費として計上している。 旅費について)本申請では我が国の家畜飼養環境下でのサンプリングを必要とし、学外の研究者を研究組織に含むため、打ち合わせや 情報交換のための旅費が必要不可欠である。併せて、研究成果を発表するための国内学会への参加が必要となる。サンプリング旅費、研究打ち合わせおよび学会参加費等を国内旅費として計上している。また、本申請課題 を遂行する上で、国際的なレベルでの情報収集および研究成果の積極的な公表のための費用が必要となる。さらに、我々の研究課題に 対する助言を仰ぐために、ユトレヒト大学およびワーゲニンゲン大学(共にオランダ)の訪問を必要とする。これらの費用を国外旅費として計上している。なお、国内および国外旅 費の交通費、宿泊費、日当は学内の旅費規程に従って算出している。 その他)最終年度に本申請課題の成果を印刷、公表するための費用としての報告書作成費、情報収集のための複写費、採取したサンプ ルの運搬費、専門誌への投稿料などの研究成果発表費を計上している。
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