研究課題/領域番号 |
23580444
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤本 由香 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40405361)
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研究分担者 |
東 泰孝 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50298816)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 消化管免疫 / 炎症性腸疾患 / 獣医学 / イヌ / 消化器症状 / 免疫 |
研究概要 |
イヌの炎症性腸疾患(IBD)は,除外診断,病理組織学的検査,治療に対する反応性から総合的に診断される原因不明の慢性腸炎であり,治療に対するエビデンスも少ない。そこで,消化管免疫機構の観点から,イヌIBDの病態の解明,新規の治療ターゲット因子の探索,予後予測に有用な成果を得ることを目指し,本研究に着手した。 平成23年度は,内視鏡または開腹術による切除生検で得られたイヌの小腸組織のパラフィン包埋切片を用い,イヌIBDでみられる免疫反応について広く解析することを目的とし,ヒトIBDの病態への関与が示唆されている免疫因子であるHeme oxygenase (HO)-1,Toll様受容体 (TLR)2,腫瘍壊死因子(TNF)αの発現の解析を免疫組織化学染色法で行った。 HO-1は抗炎症作用への関与が着目されている因子で,ヒトIBDでの発現の増加,病態モデル動物での炎症抑制作用の報告がある。本研究では,イヌの小腸におけるHO-1発現は,健常群(7頭)と比べ,慢性腸疾患群(IBD:16頭,その他の慢性腸炎:6頭)で増加をみとめ,ヒトと同じくマクロファージに発現を認めた。IBD群では,その他の慢性腸炎と比べ,臨床症状の重症度(canine IBD activity index)は有意に高かったが,HO-1の発現の程度に有意な違いは認められなかった。イヌにおいても,HO-1は,腸での炎症への関与が示唆されるが,現在のところ,IBD特有の反応とはいえず,今後,症例を増やし,さらなる検討が望まれる。 イヌIBDでmRNA発現の増加が報告されているTLR2,ヒトIBDの治療のターゲット因子であるTNFαについても,免疫組織化学染色法で発現解析を試みた。抗原の賦活化の方法,抗体の濃度など,種々の染色条件で検討したが,現時点まで特異的な染色を認めず,イヌIBD における発現解析には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イヌIBDでみられる免疫反応について解析することを目的とし,ヒトIBDの病態への関与が示唆されている免疫因子であるHO-1,TLR2,TNFαの発現について免疫組織化学染色法を用いて解析を進めたが,TLR2,TNFαに関して良好な成果が得られなかった。具体的には,抗原の賦活化の方法,1次抗体の濃度,抗体との反応時間,2次抗体など,種々の染色条件で検討を重ねたが,現時点までに特異的な染色がみられていない。本研究の検体は小腸組織であるが,その他の組織を用いた検討においても,特異的な染色が見られなかった。TLR2に関しては,購入メーカーの異なる抗体も試みたが,検体での解析には至らなかった。 平成23年度は,解析ツールである免疫組織化学染色の良好な染色条件を得ることに苦渋し,広く免疫応答について解析するという目標には到達できなかった。しかしながら,HO-1の発現解析は予定通り進み,回顧的な調査の実施により,臨床症状とHO-1発現との関わりについて検討を加えることができた。HO-1の発現は,急性の腸炎,IBD以外の慢性腸炎においてもみられ, IBD特有の反応とはいえないが,ヒトと同様,イヌにおいても炎症に関わる因子であることが示唆された。また,リンパ管の拡張所見がみられた検体でHO-1の発現が見られることが多く,両者に何らかの関連がある可能性が示唆された。HO-1のこれまで得られた結果は,イヌの腸炎の病態解明に通ずる成果であると考える。 免疫染色化学染色法を用いた解析は,より良い染色条件が得られないと解析が進まないというリスクがあるが,HO-1で得られた成果のように,目的因子の存在の有る無しだけではなく,同時に,細胞浸潤などの組織上の変化や関連因子の動態をとらえることのできる有用な方法であり,解析技術の安定化とともに,今後の解析効率はいっそう高まると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度,HO-1の発現を免疫組織化学染色法で解析を実施したが,イヌの小腸におけるHO-1の発現は,ヒトと同様にマクロファージに認められたこと,また,リンパ管の拡張とHO-1の発現に何らかの関連がある可能性が示唆された。免疫組織化学染色法は,ホモゲナイズした組織中のmRNAの発現レベルの解析では得られない発現部位の情報や,着目した因子と関連性のある組織上の変化をとらえ得る有用な解析方法であると言える。そこで,イヌの消化管粘膜の免疫応答,ならびに炎症性腸疾患の病態を解明することを目標に,ヒトIBDの病態への関連が示唆されている免疫因子について,引き続き解析をおこなっていく。平成23年度に解析を予定していたアデノシン受容体,血小板由来成長因子や,インターロイキン(IL)-17などのサイトカインについても解析を進め,発現が認められた際には,浸潤細胞との関わりを評価し,これら因子の炎症反応への関与,イヌIBDの病態への関与について検討を進めていく。 免疫組織化学染色法で解析を進めて行く上で,関心のある免疫関連因子の抗体がすべて市販されているわけではなく,平成23年度のTLR2,TNFαのように,特異的な染色が得られないこともある。そこで,パラフィン切片でのRNA in situ Hybridization解析も行ってみることにする。これは,mRNA検出に対応する解析方法で,動物種の違いなどから生じる,抗体の入手に関わる問題や特異性に左右されずに解析を進めることが期待される。 さらなる方策として,イヌIBD以外の慢性腸炎や急性腸炎の消化管組織サンプルも可能な限り集めて解析を進めることにする。IBDとその他の腸炎を比較することにより,これまで除外診断を行うなど,総合的にしか診断できなかったIBDの診断ツールの探索へと通じる成果を得ることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
免疫組織化学染色法による消化管免疫関連因子の動態の解析に,市販された抗体を用いた染色条件の検討には限界があるが,複数のメーカーの抗体を試すなど,至適染色条件の検討に十分な研究費を充て,着目した因子の動態の解析を目指す。 さらに平成24年度は,パラフィン包埋切片上で,目的の免疫関連因子のmRNAに特異的なプローブをハイブリダイゼーションさせ,その上に検出のためのBranched DNAが組み上がることで、標的因子のシグナルが増幅されるin situ mRNA検出試薬を解析に用いる予定である。これまで抗原抗体反応のより良い条件が得られず,検出が困難であった因子についても,特異性の高いプローブ設計により転写レベルで標的因子の検出が期待される。標的因子やコントロールとしてのハウスキーピング遺伝子のmRNAにハイブリダイゼーションするプローブは,受注設計されるシステムであるので,in situ Hybridization法で解析を進めるためには,市販の抗体を購入するよりも高額の費用がかかる。この解析方法の導入より,抗体が製品化されていないために免疫組織化学染色が行えない標的因子の解析が可能となり,動物種の違いなどから生じる抗体の力価や特異性の問題に左右されずに解析を進めることができると期待される。 平成24年度は,当初の実験計画である抗体を用いた免疫組織化学染色法に加えて,in situ Hybridization法を導入することが,主な研究費の使用計画となる。新しい解析方法の導入により,本研究の一層の推進を目指す。
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