研究課題/領域番号 |
23580444
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤本 由香 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40405361)
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研究分担者 |
東 泰孝 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50298816)
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キーワード | 消化管免疫 / 炎症性腸疾患 / 獣医学 / イヌ / 免疫 |
研究概要 |
イヌの炎症性腸疾患(IBD)は,除外診断,病理組織学的検査,治療に対する反応性から総合的に診断される原因不明の慢性腸炎であり,治療に対するエビデンスも少ない。そこで,消化管免疫機構の観点から,イヌIBDの病態の解明,新規の治療ターゲット因子の探索,予後予測に有用な成果を得ることを目指し,本研究に着手した。平成24年度は,内視鏡または開腹術による切除生検で得られたイヌの小腸組織のパラフィン包埋切片を用いて,ヒトIBDで発現の増強が認められ,中和抗体を用いた治療効果も報告されている,腫瘍壊死因子(TNF)αの関与について解析を行った。健常群では粘膜筋板上部を主体に発現がみられ,IBD群では粘膜固有層にび慢性に発現が検出されたが,間質においてもび漫性に染まり,染色の特異性の評価が困難であった。そこで,TNFα mRNAの in situ hybridization解析を実施することとした。 TNFα mRNAの発現は,健常群, IBD群,慢性(IBD以外の慢性腸炎)群のいずれにおいても,上皮細胞に認められ,IBD群では,他の2群と比べて発現量の減少が認められた。また,IBD群と慢性群との間に有意な差はみられなかった。 次に,TNF受容体(R)1の発現を免疫組織化学染色法で解析した。TNF-R1の発現は,3群とも上皮細胞に認められ,IBD群では,慢性群および健常群に比べ,増加する傾向が見られたが有意な差は認められなかった。 さらに,TNFα mRNAおよびTNF-R1の発現量と,臨床症状の重症度との関連を検討した。臨床症状の重症度とTNFα mRNA発現量との間に相関は見られなかったが,TNF-R1発現量との間には正の相関が認められた。 TNFα mRNAとTNF-R1発現量の動態は,IBD群では他の2群と異なったため,他の腸炎との鑑別診断や治療への活用が期待されると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イヌIBDでみられる免疫反応について解析することを目的とし,ヒトIBDの病態への関与が示唆されている免疫因子であるTNFαの発現について免疫組織化学染色法を用いて解析を進めたが,平成24年度も,前年度と同様に,入手可能な市販抗体の有用性の検討に時間を要した。加えて,陽性と思われる染色が得られるも,健常群(比較的に限局した陽性染色)と異なり,IBD群では,細胞だけではなく,間質においても漫性の染色が得られ,免疫染色の特異性の評価が困難であった。免疫組織化学染色法によるTNFαの発現解析が困難であるという結論を得るのに検討を重ねる必要があった。 次に,抗体の特異性に左右されずに解析が進められることを期待し,免疫因子の mRNA発現を in situ hybridization法(2つの因子の同時解析が可能なキット)で解析することにしたが,容易に2因子のシグナルを検出することができなかった。設計を依頼したのは,TNFαとインターロイキン(IL)-6のmRNAを検出するプローブであったが,発色試薬の不具合などの問題に遭遇したり,IL-6については有効な検出条件を見いだせず,結果としてTNFαのmRNA発現評価のみを行うこととなった。 IL-6のmRNA発現検討を断念するまでに,プローブの有用性の検討に時間を要した。 平成24年度は,免疫組織化学染色法における条件検討に続いて,in situ hybridization法を導入する際に,プローブの有用性と解析条件の検討に時間を要し,当初の計画より進展が遅れたと考える。しかしながら,着目した免疫因子TNFαに関して,TNFαmRNAおよびTNF-R1の発現動態が,IBD群では他の2群と異なっていたことから,IBDの病態の解明や治療への活用が期待でき,良好な進展も得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の成果として,IBD群では,健常群や慢性群と比較してTNFα mRNA発現量の減少が認められ, TNF-R1発現量は増加する傾向がみられた。また,健常群と慢性群の間では,両因子の発現量の間に差は認められなかった。これらTNFαおよびTNF-R1の発現動態は,IBD 群の特徴である可能性が考えられ,他の腸炎との鑑別診断および治療への活用が期待されると考えられた。さらに,TNF-R1発現量と臨床症状の重症度との間に相関が認められたことから,TNF-R1がイヌIBDの臨床症状の増悪に関わる要因である可能性が得られた。今後,TNFαおよびTNF-R1の発現動態について,さらに症例数を増やすこと,また,病理組織検査でIBDとの鑑別が困難な場合もある,消化管型リンパ腫の症例においても発現解析を行うことにより,今回得られたTNFαおよびTNF-R1の発現動態が,IBDに特有の発現変動であるのかを引き続き、評価していくこととする。 平成24年度は,イヌIBDの小腸では,健常なイヌに比べて,TNFα mRNA発現量が少ないという結果を得たが,ヒトIBDのTNFα mRNA発現が増加するという報告と異なるので,イヌの免疫反応は,ヒトと異なる可能性が考えられる。イヌにおけるTNFαの発現動態のさらなる理解のために,これまでのパラフィン包埋切片に加え,凍結切片でも同様の検討をおこない,得られた結果の検証を重ねていくこととする。 平成25年度は,イヌの消化管粘膜の免疫応答,ならびに炎症性腸疾患の病態を解明することを目標に,平成24年度に実施できなかったIL-6をはじめとする新たな免疫関連因子のイヌIBDへの関与の検討,また,これまで得られた結果を検証する解析,さらには,腸炎症状を呈するIBD以外の疾患の解析も可能な限り実施し,IBDに特有の免疫因子の変動をとらえることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,免疫組織化学染色法における条件検討に続いて,in situ hybridization法の導入の際に,プローブの有用性と解析条件の検討に時間を要し,予定通り研究を進められなかったため,次年度への繰越助成金が生じた。 平成24年度に実施した,ターゲット因子mRNAのin situ hybridization法による解析には,特異的なプローブを受注設計するシステムのキットを用いたが,引き続き解析を進めていくには,検出に必要な試薬も専用のものを入手する必要があり,一般の試薬より高額となる。また,解析の症例数を増やすためにもプローブの追加や,新たなターゲット因子のプローブ設計の発注など,in situ hybridization法の解析を進展させるにはコストがかかると予測される。 また,パラフィン包埋切片と凍結切片の成績を比較し,凍結切片での解析の方が有用となれば,サンプル採取,サンプルの運搬に,液体窒素やドライアイスなど,新たなサンプル調整のための費用を要する。 平成25年度は,研究期間の最終年度であるので,やや遅れている研究を目標達成に向けて勢力的に進める予定である。本研究のより一層の推進に助成金をあてる予定である。
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