研究課題
本年は、ケトン体がウシの受胎期における末梢血γδT細胞の機能に及ぼす影響を解明するため、先ずウシの末梢血におけるγδT細胞のγ鎖およびδ鎖レパートリー遺伝子のPCRによる解析系の確立と健康な乳牛のレパートリーのタイピングから着手し、γ鎖1、3およびδ鎖1、4、6、8の解析系を確立した。これを用い、γδT細胞であるTcR1-N12+T細胞、CD4+およびCD8+を単離し、タイピングした各プライマーによってレパートリー遺伝子の保有状況を確認した。その結果、TcR1-N12+細胞は全てのレパトリー遺伝子を強く保有していることが確認された。比較対照としてγδT細胞であるCD4およびCD8+T細胞も単離して解析し、CD4+細胞ではγ鎖およびδ鎖遺伝子は保有していないものの、CD8+T細胞ではγ1、δ1およびδ6遺伝子発現がTcR1-N12+細胞と同等程度に、まδ3およびδ8は弱く発現しており、δ4のみ遺伝子発現がないことが確認された。 これらを踏まえて性周期におけγ鎖およびδ鎖レパートリーの変化の解析の目的で、健康な乳牛の周産期におけるT細胞のレパートリーの変化を調査した。その結果、末梢血単核球においてγ鎖およびδ鎖レパートリーはともに妊娠末期に遺伝子発現が高く、分娩後において各鎖のレパートリー遺伝子が低下する事が明らかとなった。妊娠末期の単核球におけるδ3、δ4およびδ8遺伝子発現は分娩後と比べて有意な差が見られた。一方、CD8+T細胞およびTcR1-N12+T細胞における各レパートリー遺伝子は各泌乳期間において変化が無く、安定して発現した。
2: おおむね順調に進展している
本年の達成度として、γ鎖およびδ鎖レパートリー遺伝子のPCR解析系の確立ができ、当初の計画の目標に対して一定の評価ができた。しかし現在まで公表されているウシのγ鎖とδ鎖の遺伝子配列としては部分的な情報しかないため、プライマーの設計に限界が有り、制限の有る中での解析となった。また研究当初ではγδT細胞においてのみγ鎖およびδ鎖レパートリー遺伝子の発現が存在すると仮定していたが、αβT細胞であるCD8においても弱い発現が確認されたことから、CD8細胞におけるγ鎖およびδ鎖レパートリーに関しては今後の研究が必要であると示唆された。 しかし確立した解析系によって性周期のγ鎖およびδ鎖レパートリーを解析し、特出すべき一定の成果が得られたことから、当初の研究計画に概ね沿った形で成果が得られていると判断する。
本年度、得られた成果については学術誌への投稿の準備に着手するとともに、次年度の研究活動としては当初の計画に従い、T細胞レパートリーにおけるT細胞系サイトカインの産生能を解析する。次にP4感受性γδT細胞レパートリーを解析するとともに、この応答系に対するケトン体の効果を調査する。特にT細胞系サイトカインであるIL-4、IL-17、TGF-βおよびIFN-γとそのマスター遺伝子であるGATA3、RORC、Foxp3およびTBX21の反応を解析する。
特に変更なし
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Journal of Veterinary Science
巻: 73 ページ: in press
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jvms/advpub/0/1112030716/_pdf