研究課題
本年は、乳牛の各T細胞レパートリーのサイトカイン発現量の比較を行うとともに、ケトン体がウシの末梢血T細胞機能に及ぼす影響を解明することを目的とした。健康な搾乳牛のウシの末梢血単核球を用いて、CD4、CD8ならびにγδT細胞に分離してサイトカインmRNAを解析したところ、CD4はIL-4、CD8はIFN-γ、γδT細胞はIL-17mRNAを多く保有していることが明らかとなった。次にケトン体添加による機能解析を行った。アセトン(Ac)、アセト酢酸(AcAc)、βヒドロキシ酪酸(BHB)であり、各ケトン体の濃度段階希釈によるサイトカイン産生への効果と、P4刺激によるサイトカイン産生応答に対するケトン体の影響について確認した。乳牛のケトーシスで観察される血中濃度である10μg/mlを最高値として設定し、AcAcならびにBHBでは濃度依存的にT細胞系サイトカインであるIL-4、IL-17、TGF-およびIFN-γmRNA発現量が低下したが、特にIL-4では有意な差を認めた。さらにP4膜レセプターαβγmRNAのいずれもがAcAcならびにBHB 添加によって発現が低下した。次に、ケトーシスにおいて最も問題視されるBHBがP4刺激による単核球のサイトカイン遺伝子発現を解析した。その結果、PHA+BHBではIL-4、IL-17およびIFN-γmRNA発現量がPHA単独刺激に比べ低下したがTGF-βは変化せず、PHA+BHB+P4ではIL-4およびIFN-γmRNA発現量のみPHA+P4刺激に比べ低下した。BHBの添加によってIL-4IFN-γmRNA発現が低下することが明らかとなった。一方、IL-17ならびにTGF-βにおいてはP4刺激によるケトン体添加の効果は認められなかった。
3: やや遅れている
本年の達成度として、本題としていたケトン体が牛のT細胞に及ぼす影響において、T細胞が産生する主要なサイトカイン遺伝子のうち、妊娠維持への関与が強く疑われるTh2系細胞の機能をBHBなどのケトン体が抑制することを明らかにすることができ、当初の計画の目標に対して一定の評価ができた。研究を始めるにあたり予測していた、γδT細胞のγ鎖およびδ鎖レパートリーへのケトン体の刺激効果あるいは機能抑制効果の有無の解析にまでは至らなかった。γδT細胞に限定した効果の解析には至っておらず今後の課題となった。またケトン体によるγδT細胞のPIBF産生への影響に関するアプローチも不十分であり、検証が必要である。
本年の研究計画では高ケトン血症の乳牛におけるγδT細胞のα鎖およびβ鎖タイピングを予定している。25年度から一戸の牛群にて分娩後に高ケトン血症に至った乳牛の血液確保を進めており、これを使って高ケトン血症にある乳牛のリンパ球のP4反応性を解析する。また24年度に解析が不十分であったγδT細胞のPIBF産生へのケトン体の影響についても追加して解析する予定である。
該当なし
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Acta Vet. Brno
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Can. J. Vet. Res.
Vet. Res. Commun.
巻: 74 ページ: 629-632
10.1007/s11259-012-9545-7.