研究課題
多年生植物である樹木の冬芽(葉芽や花芽)は、翌春の成長および生殖器官である葉や花を展開するための重要な器官である。そのため、冬芽の越冬は樹体の成長や種の繁栄に必要不可欠な適応機構である。この冬芽の越冬機構は2つの生理過程が含まれる。休眠と耐寒性である。とくに寒冷地に生育する樹木では冬に厳しい氷点下温度にさらされるため、凍結に対する適応能力に優れている。このような樹木の優れた越冬機構は、木質バイオマスの持続的な供給を求める我々にとって非常に重要な研究対象であるが、未解明な課題が多く残されたままである。本研究では、冬芽の凍結適応機構について解析を進めると共に越冬機構のもうひとつの生理過程である休眠についても分析することにした。器官外凍結するカラマツ冬芽では、無傷の冬芽を氷点下温度にさらした場合、原基の細胞は部分脱水しながらも細胞内に残存する水は過冷却し、細胞内凍結を回避していることが明らかになった。しかも冬芽のメタノール粗抽出液から蒸留水の過冷却を促進する活性を検出したため、この活性成分の単離・同定を試みた。その結果、活性画分にはピニトール、スクロースなど6種類の炭水化物が主要成分として高濃度で含まれることが判明した。ただし、これらの6種類の主要成分のみでは過冷却活性の全てを再現できなかったため、この画分に含まれる微量成分の分析が今後の研究課題と考えられた。その一方で、カラマツ冬芽における休眠機構のうち、自発休眠が破れて強制休眠期へ移行する過程の生理変化を調べるため、まずはその過程におけるタンパク質組成の変化をショットガンプロテオーム法によって調べることにした。まずは樹種やサンプリング時期などについて条件検討しはじめたところである。休眠過程の変化の指標となるべき候補タンパク質が見出された場合、その役割などについて検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
器官外凍結するカラマツ冬芽の凍結挙動を低温走査型電子顕微鏡(cryo-SEM)によって詳細に検証し、冬芽を構成する各組織の細胞の凍結温度に対する応答が役割に応じて異なっていることのみならず、原基細胞は一部の水が脱水されるものの、残存する水は深過冷却することが判明した。そのため、冬芽における深過冷却機構に関与する成分分析を開始した。その結果、グルコースやピニトールなど6種類の主要な炭水化物が高濃度に蓄積することが冬芽の過冷却能に関与する可能性が示唆された。これによって、冬芽において重要な原基細胞の深過冷却能のメカニズムを調べるための礎となりうる知見が得られたため、おおむね順調に進展しているものと判断した。
器官外凍結するカラマツ冬芽の凍結挙動を低温走査型電子顕微鏡(cryo-SEM)によって詳細に検証した結果、冬芽を構成する各組織の細胞の凍結温度に対する応答が役割に応じて異なっていることのみならず、自発休眠期か強制休眠期かの違いでもって原基細胞の凍結挙動が異なっていることが判明した。このことから、自発休眠の解除にともなう細胞の生理変化の可能性が示唆された。そこで今後は、引き続き深過冷却による凍結適応機構のみならず、冬芽の休眠機構についても調べることにした。現在、ショットガンプロテオーム解析法を利用するなどして、自発休眠から強制休眠へ移行する際の指標となるうる候補タンパク質を見出すよう試みている。今後はその解析結果によって休眠関連タンパク質や遺伝子の解析をおこなう予定である。
該当なし
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件)
Planta
巻: 235 ページ: 747-759
10.1007/s00425-011-1536-3
Cryobiology
巻: 64 ページ: 279-285
10.1016/j.cryobiol.2012.02.012
Cryobiology and Cryotechnology
巻: 58 ページ: 125-134
低温生物工学会誌
巻: 58 ページ: 179-184
巻: 58 ページ: 99-103