研究課題
本研究では、翌春の成長を担う冬芽の凍結適応機構や休眠に関する性質を調べ、冬芽の越冬戦略の理解を深めることを試みた。これまで、複数樹種の冬芽で特徴的に観察された器官外凍結という凍結挙動について、ニホンカラマツ冬芽を用いて低温走査型電子顕微鏡(cryo-SEM)等によって解析し、原基の細胞は部分脱水しながらも細胞内に残存する水は過冷却して凍結回避していることが明らかになった。また、冬芽ではピニトール、フルクトース、スクロースなどが主要な炭水化物成分として含まれることが示された。しかし、これらの主要な炭水化物のみの混合溶液ではメタノール粗抽出液で検出された過冷却活性に満たないため、木部組織で存在が知られている過冷却促進物質の関与についても分析することにした。次に、ニホンカラマツ冬芽の休眠機構のうち、自発休眠を解除して強制休眠へ移行する過程の生理変化を調べるため、可溶性タンパク質組成の変化をLC-MS/MSによるショットガンプロテオーム法を利用して調べた。ニホンカラマツの冬芽のほか、開芽のタイミングが他の樹種より早いバッコヤナギの冬芽を用いて、それぞれ自発休眠の解除前後それぞれ2週間程度の比較的短期間でのタンパク質の組成変化を調べたところ、バッコヤナギでは約880、ニホンカラマツでは約690のタンパク質が同定され、そのうち2倍以上の変化が見られたものはそれぞれ41個と14個であった。冬芽の自発休眠解除時期で2倍以上の量的変化が見られたタンパク質が非常に少ないことから、自発休眠を解除して強制休眠に移行する比較的短期間では、タンパク質組成は大きく変化しないことが考えられた。そのため、自発休眠状態と強制休眠状態の冬芽を用いてタンパク質組成を比較することや、休眠に関する遺伝子の発現調節もしくは情報伝達系に関与する候補タンパク質に注目して調べることが今後の課題として考えられた。
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