研究課題/領域番号 |
23580455
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
服部 武文 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (60212148)
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研究分担者 |
酒井 温子 奈良県森林技術センター, その他部局等, 研究員 (90205708)
梅澤 俊明 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (80151926)
吉村 剛 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40230809)
鈴木 史朗 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (70437268)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 木材防腐剤 / 木材腐朽菌 / 銅 / オオウズラタケ / 褐色腐朽菌 / シュウ酸 |
研究概要 |
褐色腐朽菌オオウズラタケ(F. palustris)は、銅含有木材防腐剤処理木材も腐朽する銅耐性菌として知られている。本菌は、多量のシュウ酸を分泌し、シュウ酸銅を菌体外で固着させ、銅を無毒化するとされている。本菌は、オキサロ酢酸加水分解酵素(FpOAH)とグリオキシル酸脱水素酵素(FpGLOXDH)を、各々鍵酵素とする個別の経路でシュウ酸を生成する。さらに、銅無添加での酵素活性の比較により、FpOAHが関与する経路が主経路と強く示唆されている。そこで、平成23年度は、銅がシュウ酸生合成に及ぼす影響を検討した。まず、未報告であったFpOAHをコードする遺伝子のcDNAをクローニングした。FpOAH の推定アミノ酸配列の相同性検索により、FpOAHは、他生物に由来するオキサロ酢酸加水分解酵素と同じく、Phosphoenolpyruvate mutase/Isocitrate lyase-like familyに属すことが分かった。銅添加、無添加条件で本菌を培養し、培養中の両遺伝子の発現をqRT-PCRで定量的に評価した。その結果、銅添加条件下FpOAH発現量はFpGLOXDHのそれより19~150倍高く、この比は概ね銅無添加の場合も同様であった。さらに、銅添加によりFpOAH発現量は無添加の2倍に増大した。本結果より、銅添加条件下でも、FpOAH関与経路が主たるシュウ酸生合成経路であると遺伝子レベルで示唆された。しかし、銅によるpOAH遺伝子発現の増大は数倍程度であることが示された。 銅を含有させた木材試験体を本菌で腐朽させると、試験体表面に薄緑色の物質が観察された。X線吸収微細構造の解析により、シュウ酸銅であることが示された。その結果本菌は木材より外部に銅を移動する能力を有することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた計画1、2即ち、1、数種の銅耐性担子菌およびオオウズラタケによる銅含有木材防腐剤の集積・運搬機構の解析、2、オオウズラタケの細胞内銅耐性機構の解析、の達成状況は、先ず、1に関し、オオウズラタケの銅含有木材防腐剤の集積・運搬機構に関する知見を得た。解析に際しては、平成24年度に検討予定であった、X線吸収微細構造の解析を前倒しし、その結果、新たな検討課題も見いだされた。次に、2に関しては、2種の生合成酵素をコードする遺伝子の発現を解析した。以上の結果、オオウズラタケ以外の数種の銅耐性担子菌による、銅含有木材防腐剤の集積・運搬機構の解析は取り残したが、シュウ酸銅の構造解析は前倒ししたため、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の検討により、シュウ酸生合成遺伝子の発現は銅により大きな変動は受けないことが明らかになった。そこで、銅の添加による他の遺伝子の発現を網羅的に検討する前に、研究分担者が単離したオオウズラタケ以外の銅耐性菌の銅含有木材防腐剤の集積・運搬機構の解析を当初の計画よりもさらに詳細に行うこととした。すなわち、腐朽試験体表面に析出したシュウ酸銅の構造をさらに詳細に解析することを新たな計画として加えた。研究方策1.自然界より単離した銅耐性担子菌とオオウズラタケを用い、銅を含有させた木材試験体を腐朽前処理する。これらの菌の銅耐性機構を解明する。さらに、銅処理後の銅の抽出効率を、菌の種類により比較する。2.シュウ酸銅はシュウ酸と銅との結合比率が1:1若しくは、2:1のモル比で結合した2種がキレート化合物として報告されている。市販されていない1種類を調製し、X線吸収微細構造を解析することにより、表面に析出したシュウ酸銅の構造を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)当該研究費が生じた状況: 当初、オオウズラタケに加えて、研究分担者が分離した銅耐性担子菌の銅含有木材防腐剤の集積・運搬機構を解析する予定であったが、オオウズラタケに絞り、この解析をより詳細にする計画を前倒しさせた。そのため、研究分担者が分離した銅耐性担子菌を用いた解析が積み残ったため、その差額が繰越金となった。(2)翌年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画:前年度積み残った研究分担者が単離した菌による銅を含有させた木材試験体の腐朽前処理を行う。処理後の銅の抽出効率を、菌の種類により比較する。また、これらの菌もシュウ酸銅の形成により銅耐性を獲得しているか明らかにする。この目的の為、繰り越し額319,353円の一部を使用する。すなわち、サンプル保存のための保冷庫の購入、腐朽前処理に必要な培養用試薬、銅定量の為のアルゴンガス、などの購入に使用する。さらに、繰り越し額の残りは、オオウズラタケが銅含浸木材を腐朽する際形成するシュウ酸銅の構造を、より詳細に検討する、新たな計画に充てる。ここでは、標品合成の為の有機試薬の購入、構造解析のためのX線吸収微細構造依頼分析に使用する。一方、申請時計画していた、シュウ酸生合成に関与する他の遺伝子の発現が、銅の添加によりどのような影響を受けるか網羅的に解析する事項に関しては、平成23年度の検討によりシュウ酸生合成遺伝子発現の増大が予期したほどは高くなかったので、少なくとも平成24年度は実行を保留することとした。
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