研究課題/領域番号 |
23580456
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山内 靖雄 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (90283978)
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キーワード | 高温ストレス / 高温耐性植物 / 光合成 / 地球温暖化 |
研究概要 |
植物は暗所で40°C以上の高温ストレスを受けると光化学系II活性が重篤な障害を受ける。しかしあらかじめ、光存在下で40°Cの高温処理を施しておくと、引き続き暗所で高温ストレスを与えても光化学系IIの障害が見られなくなる。この現象は、気温が40°Cを超える自然環境が夏場の昼間、つまり光が存在する高温状況でも生存可能であることを説明できる重要な機構であると考えられる。申請者はこの機構を光依存獲得性高温耐性機構と名付け、この分子機構を明らかにすることを目的として、本研究計画を立案した。 光依存獲得性高温耐性を担う分子機構については全く未知のため、当該機構を欠損した突然変異体を獲得し、その原因遺伝子を特定することで、分子機構の解明する戦略を本研究では採用した。まず突然変異誘発薬剤であるエチルメタンスルホン酸(EMS)処理により突然変異を誘導したアラビドプシス個体を生育させ、光依存獲得性高温耐性を示さない突然変異体の獲得を試みた。その結果、約4000個体のEMS処理個体群から、一系統の突然変異体系統(lat, light-dependent acquired themotolerance)を獲得することに成功した。 次に変異体の原因遺伝子を特定するため、遺伝学的解析の常套手段である「戻し交配」から「遺伝子座の特定」をおこなった。変異株系統のバックグラウンド(Colombia)と異なる遺伝子バックグラウンドを持つ系統(Lernsberg)を掛け合わせて、キメラ系統の作成を行ったが、キメラ系統の高温処理後の回復が遅く、回復処理中に枯死する個体が多かった。そのため解析に必要な個体数を得ることができず、異なる戦略をたてる必要があり、平成25年度は次世代シーケンサーを用いて原因遺伝子の特定を行う計画を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
突然変異体を獲得し、その変異株の固定ができたことは、本研究計画を進める上での重要な前提を乗り越えることができたという意味で、大きな進展である。しかしその後の突然変異体の原因遺伝子の特定に苦戦しており、当初予定した遺伝学的手法を、次世代ゲノムシーケンス技術を用いた遺伝子解析法に変更した。このことから、当初予定していた計画より少し遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
従来法である遺伝学的常套手段、「戻し交配」→「遺伝子座の特定」という実験法では、本研究計画期間内での遺伝子特定が困難であると考えた。そこで、ここ数年で急速に発展してきた遺伝子配列決定技術を応用した、遺伝子変異部位の特定を試み、光依存高温耐性機構を担う遺伝子を決定することを予定している。具体的にはlatの全ゲノムDNAの塩基配列を決定し、野生株の配列と比較することにより遺伝子変異部位を特定する。その中からタンパク質をコードする遺伝子部位に変異をきしているものを選抜し、T-DNA挿入変異体やRNAi技術により、当該遺伝子の欠損が光依存獲得性高温耐性機構を欠失をもたらしていることを確認することにより、遺伝子の特定を行うことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
光依存獲得性高温耐性機構を欠失した変異体であるlat変異体の原因遺伝子を明らかにするため、次世代シーケンサーを用いたゲノムDNAの配列決定を行う費用を計上している。また、T-DNA挿入変異体の購入費用、遺伝子解析用試薬を消耗品として計上している。また研究成果は平成25年度日本植物生理学会(富山大学)で発表することを予定しており、そのための旅費を計上している。
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