研究課題/領域番号 |
23580459
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
岩崎 貢三 高知大学, 教育研究部総合科学系, 教授 (40193718)
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研究分担者 |
田中 壮太 高知大学, 教育研究部総合科学系, 准教授 (10304669)
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キーワード | ベトナム / ハノイ / 廃棄物処分場 / 水銀 / 農耕地 / 河川底質 / 環境汚染 |
研究概要 |
本研究では,ベトナム・ハノイの廃棄物処分場周辺の農耕地における安全な食料生産のための環境管理対策に資することを目的に,処分場周辺の河川(Cau Lai川)及び農耕地における水銀による汚染状況の調査を行っている. 平成24年度は,メチル水銀の分析方法を確立し,Cau Lai川底質中のメチル水銀含量を定量した.その結果,総水銀量の高かった処分場に近い地点および処分場より下流で採取した河川底質試料から,16.0~35.3 µg kg-1のメチル水銀が検出され,総水銀量とメチル水銀量の間には正の相関が認められた.一方,処分場より400 m以上上流に位置する地点の河川底質からは,メチル水銀は検出されなかった. 河川底質中の水銀を,選択溶解-逐次抽出法で,交換態,マンガン酸化物吸蔵態,有機物結合態,非晶質鉄酸化物吸蔵態,非硫化物態残さ(Hg0を含む),硫化物態残さ(辰砂)に分画し,形態別存在量を検討した.その結果,いずれの試料でも,河川底質中の水銀の約90%は,非硫化物態残さおよび硫化物態残さ画分に検出された.また,総水銀量の高かった処分場周辺で採取した試料と処分場より上流で採取した試料の各画分中の水銀含量を比較すると,有機物結合態,非硫化物態残さ,硫化物態残さ画分の水銀含量が高い傾向が観察され,総水銀量とこれらの画分の水銀含量の間には,強い正の相関関係が認められた.一方,メチル水銀量が総水銀量に占める割合と総水銀量の間には,有意な負の相関関係が観察され,負荷された水銀が,有機物結合態,非硫化物態残さ,硫化物態残さ等に形態変化することにより,メチル水銀の生成が低下している可能性が示唆された. 今後,底質および土壌中での水銀の形態変化のメカニズムについて研究を進めるとともに,各種形態の水銀の作物への移行性について検討する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の当初計画は,「選択溶解-逐次抽出法を用いて,土壌・底質中の水銀を,交換態,マンガン酸化物吸蔵態,有機物吸蔵態,非晶質・結晶性鉄酸化物吸蔵態,硫化物態,残さに分画し,水銀の形態別存在量を分析することで,その地点の水銀負荷の原因や汚染経路,作物への移行性を推察する.移動性が大きく有害性の強い画分を評価するため,無機態と有機態(アルキル水銀)を分別定量する.また,大気中の粉塵に水銀が含まれている可能性を調査するために,土壌・底質中の水銀含量の高かった地点において,大気のサンプリングを行い,水銀濃度の分析を試みる」となっている.この計画通り,採取した河川底質新鮮物中のメチル水銀の定量および選択溶解-逐次抽出法による水銀の形態別存在量の分析を行うことができた.一方,大気中の水銀量については,調査地域の農耕地土壌中の水銀含量が非汚染レベルであったことから,検出は困難と考え実施しなかった. 平成23年度,最も汚染が予想された圃場からの作物試料の採取を,休耕中であったため行うことができなかった.このため,平成24年度に,水稲植物体を採取することを目的に,現地を訪れたが,台風の影響で水稲がすべて失われており,再び目的を達することができなかった.このため,土壌中の水銀含量の確認を行うため,洪水後の圃場から試料を採取した.今後,この試料を分析してこれまでの結果を確認するともに,作物試料については,最終年度の調査で補うことが可能である. 以上のことから,一部,計画の変更があるものの,本研究は,おおむね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度は,前年度に採取した試料の分析を継続するとともに,これまでに採取できていない廃棄物処分場直近の圃場での土壌,作物採取を目的に,現地でのサンプリングを実施し,これまでに得られたデータを補強する.さらに,室内実験として,これまでに採取した底質試料のうち水銀含量の低いものに人為的に無機水銀を添加してインキュベートし,水銀の存在形態の変化を追跡する.廃棄物処分場の現場では,無分別のゴミが埋設されるため,どのような形態の水銀が周辺環境に放出されているか判断することは難しいが,このような室内実験を追加実施することで,河川底質や農耕地土壌中での水銀の形態変化について考察を加えることが可能になると思われる. そして,得られた結果に総合的解析を加え,水銀の汚染経路と汚染対策について考察する.また,ベトナムで環境セミナーを開催して研究成果を報告し,対策を提案する.そして,安全な食料生産のための環境保全に関する正しい認識を定着させる.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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