研究課題/領域番号 |
23580470
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
上妻 由章 茨城大学, 農学部, 准教授 (10284556)
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研究分担者 |
角田 佳充 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00314360)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | レクチン / マラリア / 溶血 |
研究概要 |
カルシウム依存性R型レクチンで、溶血活性を有するCEL-IIIについて、その溶血及び抗マラリア活性の向上およびカルシウム依存性を改変した高機能化CEL-III分子の構築を目的に研究を行った。まず、高機能化の一歩として、溶血の第一段階である糖鎖への結合能を高めるため、新たな糖結合部位の導入を試みた。分子モデルシミュレーションソフトMOEを利用して、糖結合活性を持たないCRD1-D43A/D141Aをベースに、サブドメイン1βのドメイン置換、または、部位特異的置換の変異体候補を選抜した。そのうち代表的な3種の変異体(2つのドメイン置換変異体1αSと1αLおよび1種の部位特異的変異体T64D/P65V/D66E/S76Y/T79D/S87D)について、発現、精製を行い、GalNAc固定化カラムへの吸着能を検討した。しかし、いずれの変異体もカラムへの結合能を示さず、さらに糖結合活性を持つCRD1をベースにした同様の変異体解析で糖結合能が低下していることが判明した。これらの変異体は、発現量が少なく、構造が不安定である可能性も示唆された。カルシウム非依存性を目的とした変異体についてもR型レクチンであるリシンの構造を用いて、同様に解析し、A34Q/D43Nを含めた4種のCRD1変異体を作成したが、いずれも現時点ではEDTA存在下での糖結合活性を示さなかった。CRD1を利用した変異体では構造が部分的であるため糖結合活性が予想以上に低下する可能性もあり、全長構造での変異体解析が必要なことも見越して、CEL-III全長を用いた変異体解析を予備的に行った。その結果、糖結合部位付近のアミノ酸残基(His37など)を変異させると、糖結合活性が若干低下するものの、溶血活性が上昇する変異体を複数得たことから、CRD1だけの解析だけでなくCEL-III全長で同時に解析する必要があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子モデルシミュレーションソフトMOEを利用して、サブドメイン1βに糖結合能を導入して糖結合活性が向上したCRD1変異体候補を選抜し、変異体タンパク質の発現、精製、活性測定をおこなった。しかし、このドメインの置換や部位特異的置換は、CRD1自体がCEL-III全長の1/3の長さしかないことから、構造の不安定化を生じる可能性もあることが示唆された。カルシウム非依存性の変異体も同様の手法で行っているが、CRD1とCEL-III全長では、変異体への構造安定性への寄与が異なること、また糖結合活性の向上と溶血活性の向上がリンクしないことも見越して、CEL-III全長を用いた変異体解析も予備的に行った結果、部位特異的置換により溶血活性が向上する変異体を得ることができることが判明した。予定では、糖結合活性が向上したCRD1変異体の知見をもとに、CEL-IIIの溶血活性向上、抗マラリア活性の向上を目指しているが、このように、糖結合活性と溶血活性の向上がリンクしていない場合もあるため、一足飛びにCEL-III全長を利用する方法の方が、今回の目的を達成するために近道である可能性があることが判明した。CEL-IIIの溶血活性の向上を目的とする点では、平成23年度での研究でその方策について道筋をつけることができたため、達成度としてはおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1:高機能化CEL-III分子の構築、活性測定と評価: 引き続きCRD1のドメイン置換変異体、および部位特異的変異体についてMOEにより変異体候補を選抜して、さらにその糖結合活性等を用いて調査するとともに、CEL-IIIに同様の変異を導入した変異体を作製する。その際にMOEで全体構造と糖結合部位の構造を再検証・評価する。また、平成23年度の予備的実験で明らかになったCEL-IIIへ直接変異を導入して溶血活性を調査する方法についても検討する。平成23年度は主にサブドメイン1αの糖結合部位のアミノ酸残基(おもに糖とのスタッキングに関わるアミノ酸残基)を置換した変異体を作成したが、今年度は他のサブドメインについても個別にアミノ酸置換した変異体を作成する。CEL-III変異体の変異法、発現、精製については、基本的にCRD1変異体の作成法と同様の手法を用いる。得られたCEL-III変異体については、Biacoreによる糖への親和力を測定するとともに、赤血球凝集活性、溶血活性、および抗マラリア活性を測定する。抗マラリア活性についてはマラリア感染赤血球をCEL-III変異体存在下で培養するなどして、マラリア原虫等を観察・計数する事によって評価する。各CEL-III変異体の糖結合活性/溶血活性/抗マラリア活性の相関について検証するとともに、高機能化CEL-IIIを選抜する。 2:カルシウム非依存性高機能化CRD1変異体の活性測定と評価: カルシウム非依存性の付加のための各サブドメインを対象にしたCRD1変異体作製とその活性評価についても、上記計画1と同様にBiacoreを用いた糖リガンドへの親和力の測定を行い、速度論的パラメータを測定し、糖結合能の高い変異体を評価・選抜する。
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次年度の研究費の使用計画 |
CEL-IIIのサブドメインに個別に直接変異を導入して溶血活性が向上した変異体について、その変異を組み合わせることにより、さらに溶血活性や高マラリア活性が向上した高機能化CEL-IIIを作製する。その際のCEL-III変異体の精製、活性測定法などについては、基本的に平成24年度と同様の手法を用いる。また、平成24年度でのカルシウム非依存性CRD1変異体の活性評価によって各サブドメインにおけるカルシウム非依存性の導入変異法を検証する。これについては、平成24年度の計画1および上記(平成25年度)によって作製された高機能化CEL-III分子に、これらの変異法を適用し、カルシウム非依存性変異体のEDTA存在下での糖への親和力を測定して検討するとともに、赤血球凝集活性、溶血活性、および抗マラリア活性を測定して、カルシウム非依存性高機能化CEL-IIIを検証する。この方策で問題が生じる場合はカルシウム非依存性R型レクチンとCEL-IIIの小孔形成ドメインからなるキメラタンパク質を作製して、その溶血活性の有無を検証する。そして、これらについて得られた結果をとりまとめて、成果の発表等を行う。
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