研究課題/領域番号 |
23580470
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
上妻 由章 茨城大学, 農学部, 准教授 (10284556)
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研究分担者 |
角田 佳充 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00314360)
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キーワード | レクチン / マラリア / 溶血 |
研究概要 |
カルシウム依存性R型レクチンで、溶血活性を有するCEL-IIIについて、その溶血及び抗マラリア活性の向上およびカルシウム依存性を改変した高機能化CEL-III分子の構築を目的に研究を行った。まず、CEL-IIIの糖結合ドメインCRDだけからなる変異体は構造が部分的であるために糖結合能が低下するという可能性と、糖結合能が強いサブドメインの検索を検討するため、CRD1+2αまたは1γ+CRD2というCRD変異体の構造を分子モデルシミュレーションソフトMOEで確認して、各変異体タンパク質を作製し、さらに各サブドメインの糖結合に必要なAsp残基(1~3個)をAlaに置換した変異体をそれぞれ5種類作製した。そしてそれらのGalNAc固定化カラムへの吸着能を検討した結果、Ala置換のないサブドメインを有している変異体でもカラムへの吸着能が消失し、糖結合能が大幅に低下することが判明した。次に、昨年度の研究結果を参考にしてCEL-III全長を用いた変異体作製による溶血活性の向上を試みた。具体的には、CEL-IIIのサブドメイン2βの糖結合部位のアミノ酸残基のうち糖とのスタッキングに関与するアミノ酸残基(Tyr222)を類似のアミノ酸(Phe、His、Trp)に置換した変異体(Y222F、Y222H、Y222W)を作製し、その溶血活性等について検討した。その結果、Y222Hは溶血活性が大幅に低下しており、またY222WはWild Type CEL-III(WT)と比べて溶血活性にほとんど差がなかったものの、Y222Fに関しては、WTよりも1.6倍溶血活性が向上していること、また溶血速度に関してもWTよりも1.5倍速度が速くなっていることが明らかになった。以上の結果より、他のサブドメインでも糖とのスタッキングに関与するアミノ酸残基への変異導入による溶血活性の向上を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子モデルシミュレーションソフトMOEを利用し、各サブドメインの糖結合能の比較、および糖結合能の低下の可能性を検討するため、CRDの変異体候補を選抜し、変異体タンパク質の発現、精製、活性測定をおこなった。しかし、このCRD変異体では予想よりも糖結合能が低下して、個別に糖結合能を比較検討することが難しいと判断した。一方、昨年度の研究から明らかになった全長CEL-IIIを用いた変異体解析についても研究を進め、サブドメイン中の糖結合部位のアミノ酸残基の中でスタッキングに関与するアミノ酸残基について、サブドメインを変えて同様に変異することによって、CEL-IIIの溶血活性を向上させることが可能であることが判明した。最終的にはCEL-IIIの溶血活性向上、抗マラリア活性の向上を目指しており、CEL-III全長を利用した今回の方法の有効性が確認できたことから、達成度としてはおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1:高機能化CEL-III分子の構築、活性測定と評価:引き続きCEL-III全長を用いて部位特異的変異導入による溶血活性の向上を調査する。これまでにCEL-IIIサブドメイン1αと2βの糖結合部位の糖とのスタッキングに関わるアミノ酸残基を置換した変異体を作製したが、今年度は残り3つのサブドメイン(1γ、2α、2γ)についても糖とのスタッキングに関わるアミノ酸残基を個別にアミノ酸置換したCEL-III変異体を作製するとともに、効果的な変異を組み合わせ多重置換したCEL-III変異体を作製する。CEL-III変異体の変異法、発現、精製法については、昨年度と同様に従来の手法を用いる。得られたCEL-III変異体については、赤血球凝集活性、溶血活性、および抗マラリア活性を測定する。抗マラリア活性についてはマラリア感染赤血球をCEL-III変異体存在下で培養するなどして、マラリア原虫等を観察・計数する事によって評価する。各CEL-III変異体の糖結合活性/溶血活性/抗マラリア活性の相関について検討し、また構造についても分子モデルシミュレーションソフトMOEで検証して、高機能化CEL-IIIを選抜する。 2:カルシウム非依存性高機能化レクチンの活性測定と評価:カルシウム非依存性の付加のために、既知のカルシウム非依存性R型レクチンの配列をもとに遺伝子を合成して、これとCEL-IIIの小孔形成ドメインからなるキメラタンパク質を作製し、キメラタンパク質の糖リガンドへの結合力等を測定して、糖結合能について評価する。さらに、その溶血活性の有無を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究においては、1)高機能化CEL-III分子の構築、活性測定と評価と2)カルシウム非依存性高機能化レクチンの活性測定と評価の2つを計画しているが、これらの研究における実験方法等は基本的に昨年度と同様の変異体作製法、発現・精製法、活性測定法を用いるので、今年度も酵素やキット、オリゴヌクレオチド、プラスチック器具など、消耗品を中心に研究費を使用する予定である。抗マラリア活性については、連携研究者が在籍している金沢大学で行う予定であり、CEL-III変異体の構造確認についても共同研究者が在籍している九州大学で打ち合わせを予定している。また、日本農芸化学会などにおいて研究成果発表も行う予定にしており、これらの実験・打ち合わせや学会参加への旅費に研究費を使用する予定である。また、研究補助や成果発表のための論文作成関係等への謝金などにも使用する予定である。
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