研究概要 |
我々は髄膜炎菌、淋菌、クラミジア菌などの病原性グラム陰性菌に対する感染防御ワクチン開発に資する糖鎖ライブラリを作成、ヒト抗体の最小認識部位を解明することを最終の目的としている。本研究では細菌が細胞外膜に産生する複合糖脂質LPSのヒト抗体が認識する「酸性コア糖鎖」を合成、プローブ化する方法の確立と、これらを用いたヒト抗体との結合能評価を目指した。その結果期間内に以下の研究成果を得ることができた。 (1)マンノースよりコア糖鎖合成に適した新しいKdo中間体を開発した。(2)これを用いてLPSに共通して見られる2種類のKdo2糖:Kdo(α2-4)Kdo, Kdo(α2-8)Kdoの合成を達成した。(3)これらの糖鎖にチオグリコール酸メチルをリンカーとして、ビオチン標識化、ヒト血清アルブミンとの縮合、およびアガロースゲルへの固定化の基礎的条件を確立した。(4)本年はKdoの非還元末端側に結合する中性糖鎖5種類の大量合成を行い、(2)で合成したKdo2糖糖鎖に導入することで、分岐型酸性内部コア糖鎖の糖鎖ライブラリの充実化を行った。(5)合成した単糖、2糖糖鎖を用いた市販のヒトIgGとの結合を試みた。その結果抗体が糖鎖に結合すると判断できる実験データ得るには至らなかった。実験条件の最適化、他の糖鎖プローブとの結合比較実験を行うことによりKdo2糖糖鎖が最小単位であるか結論できると思われる。 一方、Kdo2糖合成における立体選択性の問題について、環状エステルKdo供与体の使用、供与体と受容体をエステル結合とした後に分子内でグリコシドを形成する方法により、αグリコシドを選択的に得る試みを行った。その結果、環状エステル合成では、環外水酸基の保護基の変更が必要であること、分子内グリコシル化では糖受容体の反応性をチューニングする必要であることがわかった。
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