研究課題
触媒制御による多官能性分子の位置・立体選択的反応の開発を目的として、本年度は基質認識部としてカルボキシレートを、触媒活性部としてジメチルアミノピリジン (DMAP) を持つビアリール型求核触媒の開発研究を行った。この研究において、DMAP 触媒アシル化反応におけるカルボキシレートの機能解明も目的とした。 ナフタレン環の 1,8-位にそれぞれカルボキシレートとピリジン環が固定されたナフチル型触媒で、シクロヘキサノールの触媒的アシル化を検討したところ、対応するメチルエステル体より高い触媒活性を示す事を明らかにした。一方、ビフェニル骨格の 2,2’-位にこれらの官能基を有し、先のナフチル型触媒とは異なる位置関係でカルボキシレートとピリジン環を持つ触媒は、メチルエステル体の触媒活性と顕著な差が見られなかった。さらに、脂肪鎖を介してカルボキシレートを連結した触媒も合成し検討したところ、むしろメチルエステル体の方が高い触媒活性を示すことを明らかにした。以上のナフチル型触媒でのみ反応加速が見られる結果から、、DMAP 触媒アシル化において、カルボキシレートがアルコールを認識し、一般塩基触媒として反応を加速する反応機構を実験的に証明することができた。さらに、ピリジン環の対面に位置するカルボキシレートのみがアシル化の加速に有効に機能することを明らかにした。 他方、ナフチル型触媒が軸性不斉を持つと考え、そのラセミ化障壁を検討した。その結果、本触媒は比較的高いラセミ化障壁を持ち、エナンチオマーが室温で単離可能であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
DMAP 型求核触媒アシル化におけるカルボキシレートの反応加速効果を実験的に明らかにすることができ、分子認識型触媒の分子設計に向けた基礎知見を得ることができたため。 分子内に付与したカルボキシレートの立体的な位置が異なる種々の求核触媒を合成し、それらの触媒活性を検討した。その結果、触媒活性中心であるピリジン部と向い合う位置にあるカルボキシレートのみが反応加速に寄与することを明らかにした。この知見は分子認識型触媒の設計に重要な基礎知見となり得る。
本年度に明らかにしたカルボキシレートと触媒活性中心との立体的な位置関係を手がかりに、分子認識型触媒の開発へと研究を進める。本年度に確立した触媒骨格への官能基の付与を検討し、分子認識部位の導入を検討する。当初の研究計画通り、DMAP 触媒アシル化にとどまらず、遷移金属を触媒活性中心に用いた分子認識型遷移金属触媒も開発し、位置、立体選択的な C-H 水酸化反応などに展開する。
本年度は所属研究室で研究実績のあるアシル化反応を中心とした検討を行ったため、既存設備を用いて研究を遂行することができた。そのため次年度に使用する研究費が生じた。次年度は研究実績が少ない遷移金属触媒反応への展開も行うため、新たな研究設備が必要となる。次年度の研究費は、上記の次年度に持ち越した研究費も含め、新規な研究設備の導入に充てたい。
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