研究課題/領域番号 |
23590022
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
長岡 博人 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (30155915)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ヨウ化サマリウム(II) / α,β-不飽和エステル / 連続環化 / 生理活性天然物 / 合成 / ジベレリンA3 / パプアミン / 触媒化 |
研究概要 |
本研究は、SmI2の誘起する新たな連続環化反応の開発、使用するSmが高価であるという弱点の解消、及び連続環化反応の有効利用による生理活性天然物の新規合成ルートの開発を目的に行った。 新規連続環化反応の開発に関しては、窒素原子に2つのα,β-不飽和エステルが結合した化合物にSmI2を作用させる方法でピロール環が接合したシクロペンタノン誘導体を立体選択的かつ高収率で合成する方法を見出した。エステル部に光学活性なテザ―を付けたビスα,β-不飽和エステルのSmI2による環化反応で、光学活性な双環性シクロペンタノン類を合成する試みは、現時点で良い結果を与えていない。 SmI2の触媒化に関しては、一方のカルボニル基のα位にシリルオキシ基を有するビスα,β-不飽和エステルを基質として検討した。その結果、0.25当量のSmI2、0.5当量のメタノール、2当量の金属マグネシウム及び2当量のトリメチルクロロシランを用いる反応条件で連続環化は室温30分で終了し、双環性シクロペンタノンが80%以上の収率で得られることが分かった。なお、この反応では、最初の還元的環化で生じる核間の立体配置はcisのみとなるが、続いて起こるDieckmann縮合の位置選択性は低いことが分かった。 開発した反応の生理活性天然物の合成への応用研究に関しては、植物ホルモンgibberellin A3の合成研究を重点的に行った。まず、これまで10 : 1の立体選択性であった9位不斉点を構築に関し、各種鎖状アルデヒドとシクロヘキサノンとのL-プロリンを不斉触媒とするアルドール反応を詳細に検討し、選択性の大幅に改善成功した(>20 : 1)。また、これまで使用していた光環化付加反応を利用するビシクロ[3.2.1]オクタン環(C/D環)形成法の改良法として、1位水酸基の利用による分子内Michael反応を使用する方法を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発された窒素原子に2つのα,β-不飽和エステルが結合した化合物とSmI2との反応で、立体選択的かつ高収率でピロール環を合成する反応は、単純な鎖状構造であるビスα,β-不飽和エステルから一挙に複素環の接合したシクロペンタノン誘導体を得ることを可能にする非常に有用な方法であり、最初の例でもある。2つのα,β-不飽和エステルの窒素原子への結合様式を変えれば、多様な様式の双環性複素環合成へと発展できる。 独特の反応性を有するSmI2は有機合成上極めて重要な反応試剤であるが、近年の国際情勢の変化に伴う希土類金属高騰は、本反応試剤を利用する際の足枷となっている。したがって、今回のビスα,β-不飽和エステルを基質とした連続環化におけるSmI2の触媒化の実現は、位置選択性の点で問題は残っているものの、極めて重要な意味を持つと考えている。 植物ホルモンであるジベレリンの合成研究はこれまで世界各国で行われてきたが、代表的存在であり、複雑な構造を有するgibberellin A3の全合成に関しては、Coreyら(米国)、Manderら(豪州)、De Clercq(米国)及び著者らの4グループによる達成に限定されている。著者らの以前行った全合成も40数工程を要しているが、本研究が順調に進行すれば、工程数を大幅に短縮できる。今回の研究で得られた2つの成果(1.全ての不斉中心構築の足掛かりとなる9位不斉炭素の完璧に立体選択的な形成法の開発、2.大量合成を可能にするC/D環部合成法の開発)は、地道な部分ではあるが、エナンチオ選択的全合成、合成原料の力強い供給面で極めて大きな前進である。こうして得たC/D環部を有する化合物から、鍵反応であるSmI2の誘起する三連続反応の基質ができれば、ほぼ確実にgibberellin A3の全合成が達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ビスα,β-不飽和エステルとSmI2との反応でピロール環の接合したシクロペンタノン誘導体が合成できることが判明したため、この手法を発展させるべく、二つのα,β-不飽和エステルの窒素原子への結合様式を変え、多様な様式の双環性複素環合成への応用範囲と限界を調べる予定である。また、見出した反応の利用による天然物合成への応用を図っていきたい。 ビスα,β-不飽和エステルを基質とした連続環化におけるSmI2の触媒化が実現できたが、使用した基質は、一方のカルボニル基のα位に置換基を有する非対称なビスα,β-不飽和エステルであった。このため触媒化の問題、立体選択性の問題、位置選択性の問題が共存し、反応を複雑にしていた。今後、これまでに開発した触媒的反応条件での位置選択性に関する検討と併せて、位置選択性の問題が発生しない基質の使用、全く異なる反応系への応用(例えば、エステル、ケトン、α,β-不飽和エステルが適切に配置された鎖状化合物への応用)等を行っていきたい。 Gibberellin A3の全合成に関しては、二つの炭素鎖の結合したC/D環部の合成法の開発できたため、鍵反応であるSmI2の誘起する三連続反応の基質の合成に全力を投入したい。鍵中間体への誘導の実現は、ほぼgibberellin A3の全合成達成を意味する。 合成標的としている神経保護作用物質merrilactone、抗カビ活性を有する海産アルカロイドpapuamine、抗ウィルス活性を有するbrefeldin Aの合成研究も引き続き行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究には、合成原料とする各種有機化合物、種々の反応試薬、各種ガラス器具、化合物の精製に必要なシリカゲル等の消耗品が欠かせない。
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