研究課題/領域番号 |
23590022
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
長岡 博人 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (30155915)
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キーワード | 合成 / ヨウ化サマリウム(II) / α,β-不飽和エステル / ジベレリン A3 / 連続環化 / 触媒化 / ビシクロ[4.2.1]オクタン / 酸化的アリル転位 |
研究概要 |
本研究は、SmI2の誘起する新たな連続環化反応の開発、これらの反応で使用するSmが高価であるという問題の解決、及び連続環化反応の有効利用による生理活性天然物の新規合成ルートの開発を目的に行っている。 新しい連続環化反応の開発研究に関しては、二種類の異なるα,β-不飽和カルボニル基(エステル、アミド、ケトンなど)がテザーで結合した鎖状化合物とSmI2との反応を検討した。その結果、還元的環化―Dieckmann縮合(アルドール反応)が連続的に進行する反応条件を見出すとともに、二段階目のDieckmann縮合(アルドール反応)において官能基選択的に環化が進行するという興味深い知見を得た。 SmI2の触媒化に関しては、一方のカルボニル基のγ位にシリルオキシ基を有するビスα,β-不飽和エステルを基質として検討した。その結果、0.5当量のメタノールとミッシュメタルの存在により、SmI2の触媒化が可能であり、双環性シクロペンタノンを好収率で与えることが分かった。この反応では、最初の還元的環化後のDieckmann縮合における位置選択性が低いが、エステルを除去すると単一の化合物となる。 また、開発した反応の生理活性天然物の合成への応用研究の過程で、二つの新しい有用な反応を見出した。第一は、第三級アリルアルコールのエノンへの酸化的アリル転位反応である。これは触媒量のピリジニウムジクロマートと再酸化剤を組み合わせる方法であり、水酸基周辺の立体障害が高いアリルアルコールにも有効である。第二は、ビシクロ[4.2.0]オクタンより、SmI2による転位反応で、一挙にビシクロ[4.2.1]オクタン環を構築する方法である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究で、単純な鎖状構造のビスα,β-不飽和エステルとSmI2との反応により、ピロール環の接合したシクロペンタノン誘導体を立体選択的かつ高収率で得る方法を見出している。平成24年度はさらに、二種類の異なるα,β-不飽和カルボニル基(エステル、アミド、ケトンなど)がテザーで結合した鎖状化合物とSmI2との反応を検討し、官能基選択的に連続環化が起こることを見出している。これ結果は、非対称なテザーで結合したビスα,β-不飽和カルボニル化合物から、多様な様式の双環性シクロペンタノン環を選択的に合成することが可能になったことを意味する。 他の試薬にはない独特の反応性を有するSmI2は、有機合成上極めて重要な反応試剤である。しかし、輸入先を中国に依存する希土類金属高騰は、本反応試剤を広範に利用する際の障害となっている。ビスα,β-不飽和エステルのSmI2の誘起する連続環化が、安価なミッシュメタルと触媒量のSmI2との組合せで行なえることを明らかにした今回の研究成果は、合成化学上重要な意味を持つと考えている。 植物ホルモンの代表的存在であり、複雑な構造を有するgibberellin A3の全合成研究において、平成23年度は、1)全ての不斉中心構築の足掛かりとなる9位不斉炭素の高度に立体選択的な形成法の開発、2)大量合成を可能にするC/D環部合成法の開発、の二つの成果を得ている。平成24年度は、1)第三級アリルアルコールのエノンへの酸化的アリル転位反応におけるピリジニウムジクロマートの触媒化の成功、2) ビシクロ[4.2.0]オクタン誘導体を、核間に水酸基を有し末端メチレンを有するビシクロ[4.2.1]オクタン環に一挙に変換する新手法を見出した。これらは、いずれも合成化学上有用な反応である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、ビスα,β-不飽和カルボニル化合物に対するSmI2の誘起する連続環化反応で双環性複素環化合物の合成が可能になり、かつ、環化位置の制御が可能になったため、この手法を発展させ、多様な様式の双環性シクロペンタノン及び双環性複素環合成への応用を検討する。 ビスα,β-不飽和エステルのSmI2の誘起する連続環化反応において、安価なミッシュメタルを使用することで高価なSmI2の触媒化が実現できたことは、SmI2を用いる反応の適応範囲拡大の手掛かり与える成果である。しかし、これまで検討した基質の種類が限定しているため、この反応の適応範囲と限界を明らかにしたい。また、それらの反応における立体選択性、位置選択性、反応速度などを調べる予定である。 Gibberellin A3の全合成に関しては、エナンチオ選択的アルドール反応を利用し、光学活性なシクロペンタノン誘導体を合成する方法を見出し、二つの炭素鎖が結合したC/D環部の合成法の開発できた。しかし、SmI2の誘起する三連続環化反応の基質となる鍵中間体への変換に苦戦している。その原因は、多数存在する水酸基の保護基選択の難しさにある。平成25年度は、この問題点を解決して骨格合成の前駆体となる鍵中間体を合成する方法を開発し、光学活性なgibberellin A3の全合成達成を目指す。平成24年度に見出したビシクロ[4.2.0]オクタン誘導体をビシクロ[4.2.1]オクタン環に一挙に変換する新手法の応用範囲が明確でないため、この点の検討を行う。 また、これまでに見出した反応の活用による生理活性天然物(抗腫瘍活性を有するセスキテルペンcoriolin、抗カビ活性を有する海産アルカロイド papuamine、抗ウィルス活性を有する brefeldin Anなど)の合成研究も引き続き行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費と合わせて、物品費(試薬・消耗品)として執行する。
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