研究課題/領域番号 |
23590033
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
今川 洋 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (80279116)
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キーワード | 有機化学 / 生物活性 / アルツハイマー病 / 神経科学 / 薬学 / 有機合成化学 |
研究概要 |
徳島文理大学の福山らは,神経のモデル細胞であるPC12細胞を用いた活性評価系を用いて,神経突起伸展促進活性を有する,多種の低分子化合物の単離構造決定に成功している。中でもネオビブサニン類と呼ばれる一連の化合物が,比較的強い活性を有することが明らかとなっており,認知症治療薬のシード化合物として期待されている。私たちはこれまでに,それらの一つネオビブサニンBの全合成に成功しており, また様々な誘導体の合成によって活性保持に必要な構造単位を明らかにした。また活性を保持した蛍光標識体の合成に成功し,その細胞内での挙動に関する知見を得る事にも成功した。さらに,詳細な作用機序解明を目的に,光親和性標識を持った分子の合成を進めた。現時点で,微量ではあるが光親和性標識体の合成に成功しており,今後,合成効率の改良を実施すると共に,本標識体を用いて活性物質と相互作用する生体内分子の検出を進める予定である。一方,構造を単純化した誘導体に天然物のネオビブサニンBと同等の活性が認められた事から,これを用いたin vivoでの実験を検討した。まず,マウスを用いて生体内分布を検討した。その結果,合成した誘導体は,腹腔内,静脈内,皮下注射,経口投与のいずれの投与経路においても,血清中から脳内に効率的に移行する事が分かった。さらに,嗅球を摘出した認知症モデルマウスを用いた実験を実施した。神経細胞の生存,成長,機能の亢進を調整する脳由来神経栄養因子BDNFは,レセプターTrkBに結合する事でシグナル伝達系を活性化する事が知られているが,合成した誘導体は,そのシグナル伝達系の下流に位置する,AktとERKのリン酸化を有意に増加させる事が確認された。現在,合成誘導体が認知症モデルマウスの記憶改善に効果を示すか検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネオビブサニン類の活性発現機構解明のため,光親和性標識体の合成を進めており,数ミリグラムではあるが,化合物の単離に成功しており,現在詳細な構造決定と,より効率的な合成ルートへの改良を検討している。さらに,嗅球を摘出した認知症モデルマウスを用いた実験を実施した。神経細胞の生存,成長,機能の亢進を調整する脳由来神経栄養因子BDNFは,レセプターTrkBに結合する事でシグナル伝達系を活性化する事が知られているが,本研究で新たに合成したネオビブサニン誘導体は,そのシグナル伝達系の下流に位置する,AktとERKのリン酸化を有意に増加させる事が確認できた。これらの結果は,活性発現機構に重要な知見で有り,ネオビブサニン類が,これらのシグナル系のいずれかの場所で,促進的に機能していることを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,光親和性標識体の合成ルートの改良を進めると共に,それを用いた標的タンパク質のつり上げ実験を進める予定である。また合成したネオビブサニン誘導体の一つが,マウスへの投与で効率的に脳へ移行する事が明らかになったことから,認知症モデルマウスをもちいて,その症状改善効果の検討を実施する予定である。さらに,さらに多様なネオビブサニン類誘導体の合成を進め,より高活性な化合物の創製に挑戦する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画の主要な課題である合成研究を進めるため試薬,溶媒,ガラス器具類の購入の他,生物活性試験の実施に必要な,消耗品類の購入を予定している。
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