研究概要 |
精密分子認識能を有する新規光学活性ホスト分子の候補化合物として,新規テトラフェニレン誘導体を選択し研究に着手した.本年度の成果は以下のとおりである.1.2,7,10,15-位に置換基を導入した新規テトラフェニレン誘導体の短段階かつ高収率での合成法を確立した.具体的には,3-ブロモアニソールを出発原料として,対称面での二度のカップリング反応により,わずか4段階で2,7,10,15-テトラヒドロキシテトラフェニレン(THTP)を得た(4段階収率,45%).2.得られた2,7,10,15-テトラヒドロキシテトラフェニレン(THTP)の光学分割には(S)-フェネチルアミンを用い,(+)-体,(-)-体それぞれ純粋な光学活性THTPを得ることに成功した.これは,テトラフェニレン誘導体の光学分割に成功した初めての例である.3.光学活性THTPをホスト分子に用いて,種々のアミン類に対する分子認識能を検討した.その結果,様々なアミン類の光学分割に成功し,純粋な光学活性アミンを得ることができた.例えば,ラセミ体のフェネチルアミンをゲスト分子に用いた場合,(S)-体および(R)-体のフェネチルアミンをそれぞれ96%eeの光学純度で得ることに成功した.4.光学活性THTPとフェネチルアミンとの包接錯体の分子認識様式を解明する目的で,包接錯体の単結晶X線結晶構造解析を行った.これにより,ホストの持つ水酸基とゲストのアミノ基窒素原子との間に働く分子間水素結合の他,π-π相互作用など弱い相互作用が重要な役割を演じていることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
得られた光学活性2,7,10,15-テトラヒドロキシテトラフェニレン(THTP)が,アミン類に対する光学分割剤として機能することが明らかとなったので,平成24年度はゲスト分子の適用範囲を広げるため,他の官能基(例えば,アルコールやカルボニル化合物)を持つゲストにも適用したい.また,THTPの活性が十分満足できるものとなっていないことから,より活性の高い有用なホスト分子の合成を目指したい.具体的には,水酸基を足がかりにしたホスト分子をデザインし,すでに合成に着手している. 応募者が精力的に開発してきた,熱力学的な平衡条件下,分子認識現象を用いた光学活性体供給法である「デラセミ化法」に新規ホスト分子を適用したい.
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