研究概要 |
精密分子認識を有する新規光学活性ホスト分子の候補化合物として,光学活性テトラフェニレン誘導体を選択し研究を開始している.本年度に示す成果は以下のとおりである. 1.2,7,10,15-位に水酸基を導入した2,7,10,15-テトラヒドロキシテトラフェニレン(THTP)の大量合成の成功により,グラムスケールでの供給が可能となった. 2.THTPの光学分割分割剤として用いた(S)-フェネチルアミンが,(+)-体のTHTPと包接錯体(針状晶)を形成し,また,(-)-体のTHTPとも包接錯体(板状晶)を形成する現象について,これら二種の包接錯体の成り立ちや安定性などについて各種機器分析を用いて検証した.これにより,(S)-フェネチルアミンと(+)-THTPで形成される包接錯体が,速度論支配下に速やかに形成されるのに対して,(-)-体のTHTPとは,熱力学支配下により安定な包接錯体が形成されることを見いだした. 3.こうして得られた光学活性THTPをホスト分子に用いて,種々のアミン類に対する分子認識能を検討した.その結果,様々なアミン類の光学分割に成功し,純粋な光学活性アミンを得ることができた.この際,光学分割の効率を調べるために,本研究費により獲得した液体クロマトグラフィー用のELSD検出器が役に立った. 4.光学活性THTPとフェネチルアミン類との包接錯体の単結晶X線結晶構造解析を行った.これらにより,ホスト分子の持つ水酸基とゲストのアミノ基窒素との間に働く分子間水素結合の他,π-π相互作用など弱い相互作用が重要な役割を演じていることが分かった.また,芳香環上の置換基の有無により,分子認識現象に違いが現れることも見いだした. 5.THTPにおける精密分子認識の駆動力である,フェノール性水酸基近傍に置換基を導入した誘導体の合成に着手した.具体的には,ハロゲン化後,続く鈴木-宮浦カップリングによる芳香環導入や薗頭反応による増炭反応を行った.
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