筋ジストロフィーは、筋細胞膜上の糖タンパク質と細胞外マトリックスとの相互作用が失われることによって発症する。研究開始当初、この相互作用に関与する糖鎖として二種類の構造が提唱されていた。また研究代表者は、それらのうち一種類の糖鎖の調製に成功していた。本研究では相互作用に関与する糖鎖構造を明らかにする目的で、以下4項目の検討を計画した。1、もう一種類の糖鎖(リン酸化O-マンノース型糖鎖)の合成ルートの確立。2、糖鎖と細胞外マトリックスとの相互作用解析法の開発。3、二種類の糖鎖と細胞外マトリックスとの相互作用の比較による、筋ジストロフィーの発症に関与する糖鎖の特定。4、治療薬開発に貢献するための糖鎖の提供。 平成25年度は、上記項目2において当初計画していた合成糖鎖がマイクロプレートへ固定できなかったことから、固定化実績のある天然糖ペプチドの利用について検討した。すなわち、鶏卵由来のシアリルオリゴ糖ペプチドから筋細胞膜上に存在する糖鎖の調製について検討し、残り1工程で目的化合物へ導くことが可能な合成中間体を得ることができた。現在最終工程について検討しており、目的化合物調製後に細胞外マトリックスとの相互作用解析を行う予定である。 研究期間全体を通じて、上記項目1ではリン酸化O-マンノース型糖鎖の合成法を確立することができた。また、この検討過程において合成した中間化合物から、生化学研究に利用可能な化合物を調製することができた。項目2および3に関しては、糖鎖とレクチンとの相互作用解析法を開発したが、糖鎖と細胞外マトリックスとの相互作用について検討するまでには至らなかった。項目4に関してはリン酸化O-マンノース型糖鎖誘導体を共同研究者へ提供し、糖鎖の生合成経路について新たな知見を得ることができた。本研究で得られた結果は筋ジストロフィー発症メカニズムの解明に役立てると考えている。
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